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平安桜女伝記〜桜舞う夜に…〜

 ( 初心者のための小説投稿城 )
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麗愛★DOCOMO=IVLNbqIM06

夜。今宵は満月。
美しく光る月が静かに降りそそぐ。
静かな夜、1本の桜の木の下にうれいをたたえた少女が一人立っている。その少女が、ちらりと誰もいない空間に目を向けた。否、そこには普通の人間には見えない人ならざる者がいる。
少女は前を向いたまま口を開いた。


「…どうした」


少女が厳かに問うと、人ならざるモノ…銀髪の青年は跪いた。


「西の方角ので妖が人間を襲っております。いかがなさいますか?」


少女はハァ…と、ため息をつくとそっと目を閉じた。刹那、突風が吹き荒れた。突風が少女を取り囲む。風がやんだとき少女の姿は変わっていた。美しかった黒髪は、桜色に変わり、瞳は琥珀色に、身軽な姿になっていた。そう、彼女もまた人ならざるモノ。


「行くぞ」
「御意。桜様」


銀髪の青年と少女は闇の中に消えた。


******************


初めての歴史物です。
変なところがあるかもしれませんがよろしくお願いします!

基本、パソコンから更新します。

2012/02/13 16:37 No.0
記事メモ2012/02/29 17:55 : 麗愛 @azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

登場人物。まだまだ、出てきます!


桜…【Sakura】桜女一族の頂点に立つ少女。10年前のある事件で人間を怨んでいる

人間と、妖怪の血を引いている。


瑠輝【Ruki】妖怪と人間の血を引いた半妖。何でもできる。


夕凪【Yuunagi】妖怪と人間の血を引いた半妖。美しいが性格が少々問題


真白【Masiro】藤原家の姫君。本当は明るく、天然な少女なのだが屋敷の中では落ち着いた普通の姫君


香須美【Kasumi】真白の女房。騒がしいが、親しみやすく優しい女房


美桜【Miharu】桜の母親。10年前のある事件で命を落とした。優しく、穏やかな人。


晴香【Haruka】真白の母親。美桜の友人。いつもは穏やかで美しい人だが桜の前だけ本性を見せる。


読んだら、サブ記事にコメント&アドバイスを書いてくださるとうれしいです!

出来れば、お願いします。

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麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL



桜は闇の中をひた走る。
向かうは西の方角。妖気の漂う場所に。
桜の隣には銀髪の青年が走っている。
銀髪の青年はちらりと桜を見た。この子は、我が主は、やはりこういう時になると
無表情になる。焦りもしない、かといって楽しそうにするわけでもない。
いつも、「無」だ。
銀髪の青年の視線に気がつき、桜は青年のほうに目を向けず前を向いたままで問いかける。

「なんだ、どうしたんだ?私の顔になにかついているか?」
「い、いいえ!なにも付いておりません。申し訳ございませんでした」

青年が少し戸惑いながら言うと、桜はふっとほほ笑んだ。

「そうか。なぜ、謝る。お前はなにも悪いことはしてないだろう?瑠輝」
「…」

やっと、ほほ笑んでくれた。けれど、やはり言葉づかいは戻らない。
桜は通常は女性らしい話し方をする。
けれど、こういう時になると話し方が変わるのだ。
(桜様がこういう言葉づかいになったのは、あの時から…)
青年はすこし、悲しそうな眼をした。
刹那、女の悲鳴が聞こえた。結構、近くに来ていたらしい。
桜は一瞬渋い顔になった。
けれど、それも一瞬のことですぐに表情は「無」になる。

「もうすぐだ、気を引き締めろ。瑠輝」
「はい」

少女と青年は気を引き締め、夜の都を駆け抜けた。

2012/02/13 18:27 No.1

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

近づくにつれて妖気が濃密になってゆく。余りにも、濃密な妖気に桜は思わず
袂で口を覆った。
(なんだ…この妖気…。雑鬼ではないな…。低級の妖でもない…。なんなんだ?)
ねっとりとした妖気が桜にまとわりついてくる。
顔をしかめながら桜は先に進む。瑠輝も桜の後に歩く。
歩みを進めるごとに、まるで妖気がこのさきに進ませまいとするかのように
体にまとわりつき、体が重くなる。
少し歩くだけで、息が上がる。桜の頭の中に一瞬帰ろうかと思った、けれど母との最後の約束を
果たすためその考えは瞬時にうち消した。
(ダメだ…。甘えるな!私が甘いから、お母様は…!)
ぶんぶんと頭をふり、気を引き締めなおした。

「急ぐぞ」
「はっ」

短い会話だと、自分でも思った。
ふっと自嘲して桜は走り出した。瑠輝も後に着く。
妖気の根源が見えてくる。そこには、妖と少女がいた。
桜と、同い年ぐらいの少女が…。
桜は腰にはいていた剣を抜いた。

「何をしている!妖…!!」

桜は剣を振り下ろしながら叫ぶ。
妖は桜の剣を間一髪のところで弾き飛ばした。
反動で、桜も吹っ飛び木に背中を強打した。

「―――桜様!」
「…何?桜、だと?」

桜の名を聞くと妖は聞きかえした。
瑠輝がいぶかしむと、妖は桜を見て納得したようにうなずいた。

「あぁ。そうか。こいつは…あのときの…」

2012/02/13 20:34 No.2

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

「あのときの…?」

瑠輝は眉根をよせていぶかしむ。
桜は、こいつに会ったことがあっただろうか…?と、記憶を手繰る。
でも、いくら探しても見つからない。
妖は意味ありげにニヤリと、笑う。

「あぁ。イヤ、何でもない。そうか、生きていたか…。娘、今日はアイツに免じて
逃してやろう。じゃあな」
「―――っ!!」

妖は少女に目をやると闇の中にとけるように消えて行った。

「――っ!待て!!」
「やめろ。追うな。…さて、こいつはどうするか…」

瑠輝が妖を追おうとするが、桜がそれを止めた。
妖に襲われかけていた少女は目に涙をためながら桜を凝視した。
そして、小さな声で呟いた。

「さ、桜女―――!!」

桜はそれを聞いてふっとほほ笑んだ。
あぁ、こいつも同じか。次はきっと悲鳴をあげて逃げるだろう。
そう思った。けれど、桜の予想に反して少女は悲鳴を上げなかった。逃げなかった。
少女はなにか言いたそうに桜を見ている。

「なんだ、娘。何か言いたいのなら聞いてやろう。なんだ?」
「いえ…あの、あなたは人間…なの?」

桜は驚いて目を見開いた。
「妖怪!」っと言われて逃げ出されたことがほとんどな桜はスッと目を細めた。

「さぁな。もう、帰れ。その格好だとお前はどこかの姫君だろう?とっとと帰るといい」
「あっ…助けてくれてありがとう!」

少女はそれだけ言うと自分の屋敷に向かい走って帰った。
桜は少女の後ろ姿を見つめた。

「桜様?」

おずおずと瑠輝が呼ぶと桜はぽつりとつぶやいた。

「なぁ、瑠輝。人間にありがとうなんか言われたの初めてだ…。
何だったのだろう?あの娘…」

瑠輝は驚いた。珍しい、我が主が人間に興味を示すなんて…。
これは、なにかの予兆だろうか…?

2012/02/13 22:23 No.3

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

          +。゜.*+.゜。*+゜.・*+。゜.*+

「お母様?どこにいらっしゃるの?母様…?」

小さな、小さな少女の声だった。高いその声は心なしか寂しさを帯びている。
――――この声…どこかで聞いたことがあるような…懐かしい、声…。
桜はいつの間にか白い空間の中に居た。
どうしてか、桜が降りあたりは桜色に染まる。
桜の降る中で少女は泣いていた。母の名前を何度も呼びながら…。
泣きながらも少女はきょろきょろと母の姿を探す。すると、今まで不安顔で泣いていた少女の顔が
ぱぁ、と、花が咲くように明るくなった。

「母様!いったいどこに行ってらしたのですか?心配したのに…」

本当に心配そうに少女が女性の衣をつかみながら言う。
すると、女性はクスクスと笑った。

「ごめんね、桜。少し急な用事が入ってしまって…」
「…また妖がでたのですか?桜、はやく大人になって母様のお役にたちたい!」
「ふふっ。ありがとう。でも、あなたが大人になった時に母様はまだこの世にいるかしらね?」

桜は目を見開いた。どこかで聞いたことのある声だと思ったらアレは…あの子は幼いころの自分だった。
そして、にこやかにほほ笑んでいるあの女性は…。

「おかあ…さま?」

刹那、突風が吹き荒れた。幼き頃の自分と母は消え桜は突風に吹き飛ばされた。
桜は「イヤだ」と、首を振った。
―――まって、まだ母様と話してない。母様とっ…!!
けれど、桜の思いは実らず突風はすさまじい勢いでそこにあった光景すべてを消しさった。

2012/02/14 14:12 No.4

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

目をあけるとそこは闇だった。
夜だろうか?桜はあたりをきょろきょろ見回した。
遠くが…騒がしい…。
この光景を知っているような気がした。イヤ…正しく言いなおすと体験したことがあるような…。
考えて、桜はハッとした。

「まさか…」

桜は騒がしい場所に向かって走る。走りながら桜は自分の考えをうち消そうとする。
あっては欲しくないという願いか、もう、見たくないという願いか分からない。
桜はとにかく走った。自分の目で見なければ意味がないと思ったから。
走っている道は見覚えがあった。通ったこともある。
――――やっぱり、あの場所にたどりつくのか…
桜は確信した。そして、自分は覚悟を決めなければという思いができた。

目的の場所にたどりついた。
そこは桜が思っていた場所だった。
真っ暗やみの中少女が泣いている。「間に合わなかったか…。」と、桜が呟く。
泣いていたのは白い空間で見た少女。すなわち幼き頃の自分だ。
少女は何かに抱きついて泣いている。それは、忘れもしない自分の母。
幼い桜は必死に母の名を呼ぶ。けれど、母はピクリとも動かない。
――――2度も…見るとは思わなかったな…。2度と…ここに来ないと思っていた…
ここは、桜にとってイヤな場所。桜の唯一の肉親である母が息を引き取った場所。
そして、桜が人間を怨むきっかけとなった場所…。
泣きながら顔を上げた時、幼い桜は憎しみの光を瞳に宿していた。
そして、震える声でいったのだ。

「許さない…母様を殺した人間どもめ!必ず…必ず復讐してやる!!」

2012/02/14 17:20 No.5

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

            +。゜.*+.゜。*+゜.・*+。゜.*+

桜はハッと目を覚ました。

「…夢…?」

小さくつぶやきあたりをきょろきょろ見回す。
部屋の中に明るい光がさしている。今は朝…だろうか?
桜は起き上がると御簾を上げた。
と、御簾を上げるとそこには桜を起こしに来たのだろう。瑠輝が立っていた。
瑠輝は驚いたように桜を見る。

「さ、桜様。今日は早起きでいらっしゃいますね…」
「え?まぁね、夢を…見ちゃったから…」

桜は苦笑した。
瑠輝は「夢…ですか?」とつぶやくと、首をかしげた。

「そう。久しぶりの夢だったからびっくりしちゃって…」
「そうですか?なら…いいんですけど…って、あっ!!」
「ん?」

瑠輝が横を向いたまま固まった。
桜はどうしたのかと思い、瑠輝の向いているほうを覗きこむとそこには恐ろしい形相をした
少女が立っていた。少女はこちらに歩いてくると「ふふっ」と笑い瑠輝の胸倉をつかんだ。

「なぁにやってるのかな?まさか、私の桜様にちょっかいかけようなんて、思ってないわよね…?」
「お、思ってるわけないだろ?!なんで、そんなこと聞くんだよ?!」
「…あら?なぁに、それ。桜様に色気がないとでも言いたいの?!」
「なんだよそれ!俺の話しのどこをとればそんな解釈が出来るんだよ?!」

桜は2人の言い合いを静観してクスリとほほ笑んだ。
この2人の言い合いはいつ見ても飽きない。
もう少し見て居たかったが瑠輝が可愛そうなので、助けを差し伸べる。

「ほら、夕凪。やめてあげなさい。それに、私はまだ15だもの…そんなのないことぐらい知ってるわ」
「そ、そんなことありませんよ!桜様はとてもお美しゅうございます」

夕凪が瑠輝の胸倉をパッと離すと、頬を染めて応答する。
桜はそれが可愛くてクスリとほほ笑む。

2012/02/15 19:46 No.6

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

一方、胸倉を掴まれた瑠輝はいきなり手を離されることを予想していなかったのか頭を強打して
伸びている。瑠輝と夕凪は双子だ。一応、瑠輝が兄なのだが夕凪にいつもしてやられている。
伸びている瑠輝に夕凪が目を止めると夕凪は座り込むとまるで、珍しい物をさわるかのように
ツンツンと瑠輝の体をつつく。

「あら?お兄様、こんなところで何を寝ていらっしゃるの?桜様の目の前で寝るなんて・・・失礼ですよ!」
「…。お前は…本当に桜様一筋だな…」
「当たり前じゃない!桜様は私の命の恩人よ?」
「…俺もなんだけど」

夕凪が胸がふんっと胸をそらすと、瑠輝がおずおずと手を上げる。
すると、夕凪の目がキラリとひかり瑠輝の首根っこをつかんだ。

「ちょっ…!なにするんだよ!離せ〜!!」
「少しはお黙りなさいな!あ、桜様、あさげの用意が出来ておりますわ!」

思い出したかのように夕凪が振り返り桜に言う。
桜は軽く手を挙げてそれに応じると、いそいそと着替え始めた。

2012/02/15 23:38 No.7

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

あさげを食べながら桜は夢のことを考えていた。
――――どうして、あんな夢なんか見たんだろう?それに、私が夢を見たってことは…
桜は箸を置き考え込んだ。桜が夢を見るときはめったにない。
見るときと言えば何かが起きるときか、何かに関係がある時。
桜が夢を見るときは大抵はいい夢ではない。だから、イヤなのだ。
夢を見るなんて…。などと、後のほうは愚痴になってしまったころ誰かが瑠輝が
おずおずと話しかけてきた。

「桜様?どうかされましたか…?」
「あっ、イヤ何でもないよ。大丈夫」

桜は、はたと気がつくとニッコリほほ笑んだ。
いけない、いけない。関係のないことを考えるところだった。
さて、本題に戻ろう。あの夢は予知夢ではない。
なぜなら、あれは桜の過去だから。では、何かに関係があるのか。
――――何に?
新しい疑問が浮かび上がる。何に、関係があるのか。
考え込んでいると桜の花びらが視界をかすった。
その瞬間に、桜の頭に思い浮かんだのはあの夜…。
…あの夜?
あの夜、妖に襲われている少女と会った。妖は取り逃がしてしまったが
少女は助けることが出来た。あのとき、あの妖は自分のことを知っているように言っていなかったか。
「生きていたか」と、言わなかったか。考え込んでいるとハッと桜は息をのんだ。
思い出した、アイツはあのとき、あの場にいたんだ。
アイツが母を殺し、桜が人間を憎むようになったきっかけの人物。

「アイツは…」

2012/02/16 22:13 No.8

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

             +。゜.*+.゜。*+゜.・*+。゜.*+

あの後。母が息を引き取り自分が恐ろしい言葉を口にした後、あいつは現れた。
桜は思いっきり”あいつ”を睨んだ。憎しみをこれ以上ないほどにこめて。
アイツは男だった。人間の男。都人達を騙し母を殺した張本人。
男はふふふっと肩を震わせた。その後、こらえきれなくなったように笑いだした。

「あはははは!無様だなぁ桜女!お前が愛していた都人は少し偽の情報を与えると
すぐにお前を敵だと言ったぞ。誰も疑いはしなかった。やはり、人間と妖が仲良くできる時代など
来るはずがないんだよ!」

桜は男を睨んだ。いつの間にか、手を強く握っていて鋭い痛みがはしったと思うと
握り締めたこぶしから赤い血が流れてきた。
桜は少し顔をしかめるが、睨みかえすのをやめなかった。
母を侮辱して死にまで追いやったこの男から絶対に目を離さない。
許すものか、絶対に…。
視線に気づいた男はニヤリと不気味な笑みを口の端にのせた。

「お前も大変だなぁ。桜女一族の中に生まれてきたりして…。しかも、跡取りなんて…。
生かすわけには、いかないなぁ」

男は懐から何かをだす。それは、月の光を反射してキラリと鈍くきらめく。
桜は身構えた。狂っている。こいつからは人間のにおいはしない。
人を騙していくうちに人間の道を外れるようなことをしたのだろう。
男は刃物を構え幼い桜に突進してくる。桜はそれをヒラリとよけると
男の後ろに着地した。男は振り向く。醜い言葉を吐きながら。

「さすがは妖の血を引いた化け物。お前は自分を人間とでも思っているか?残念だがお前は人間なんかじゃない。
妖と人間の血を引いたただの化け物だ!!」

桜はそれを聞き、5歳の子が浮かべる笑みとは思えない、冷酷な笑みをみせた。

「私が人間?そんなこと1度も思ったことはないさ!そうだとも、私は化け物。
人間と妖の血を引く化け物さ!!」

2012/02/17 22:55 No.9

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

いつも言われ続けていた。『人里に下りるときは必ず人間の姿をしてお行きなさい。決してその姿で言ってはダメよ?』
母が毎日のように言い聞かせていたこの言葉を、桜は1度だけやぶったことがあった。
その時いつも仲良くしていた子達が突然、顔色を変えて逃げ出した。

「桜女だ!桜女が僕らを殺しに来た!!」

この言葉を今でも忘れない。決してこの姿で人里に下りてはいけない。
守っておけばよかった。母の言葉を守っておけばこんなにつらい思いをしないですんだかもしれない…。
傷つき、ぼろぼろになって居る桜を初めに見つけたのは母だった。
触れれば壊れてしまいそうな、そんな感じがした。と、母は言っていた。
母は桜を抱きしめた。ボロボロになった我が子を抱きしめて言ったのだ。

「だから、いけないと言ったでしょう?もう、心配したのよ!」

そう言って、母は桜を抱きしめた。母のぬくもりに桜の瞳から自然に涙が流れていた。
何度も何度もごめんなさいとつぶやいた。
それから知った、自分達は人間から化け物扱いされていると。
母はそんななかでも人間を助けている。そう思うと、やはり母はとても強い人だと思った。
そして、自分もこんな人になれたらいいなとも…。


2012/02/17 23:22 No.10

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

けれど、自分は母のようになれないと今、気づいた。
母はどんなに人間に裏切られようとも人間を信じていた。決して、抵抗しなかった。
でも、自分は…。
許せない、母を殺した人間を。母を侮辱した人間を…。
桜はクスクスとほほ笑んだ。

「知っているとも、私はどこにも属さない化け物だってことは…。」

言葉づかいといい、行動といい、すべてががらりと変わった。
すべて、大人びて5歳とは思えない。男は驚いた。
人を怨むとこんなにも人が変わるのかと…。桜はニヤリと笑った。

「あぁ、そうだ。親切に教えてくれたんだから私も教えてやろう。お前、もう人道を外れているぞ?
母を倒すために、あらゆる策を練りあらゆる行動をとったのだろう?」

桜は面白そうにほほ笑んだ。
男は驚いたように目を見張らせた。気づいていなかったらしい。
桜はおかしくなり笑いだした。

「あはははは!まさか、気づいていなかったのか?」
「―――ッ!っるさい!!」

男は刃物を振り回す。こんなにめちゃくちゃに振り回すなんて、当るものも当らない。
桜はひらりとそれをよける。
いい加減に飽きてきたので、刃物をつかんで止める。手から血が流れるが気にしない。

「そろそろ諦めたら?私を殺してもあんたが人道から外れたのは変わらない。あんたは、母を殺した償いに
永久に生きていろ。まぁ、陰陽師に運悪く狙われればさすがに消滅するがな…」
「ッ!クソッ!!」

男は刃物から手を離す。桜は刃物を適当な場所に投げ捨てると無感動な眼で男を見た。
本当にこの娘は5歳児なのか?こんなに大人びた少女がいるなんて…。
男は恐怖を感じその場から逃げだした。桜はそれを見届けること無く近くで驚いて固まっている
仲間に命じた。

「音羽、唯璃亜、母様をあの場所に埋めてあげて。お願いね」
「はっ!その前に桜様、お手を…」
「私はいいわ。自分でやる。さぁ、行って…」

桜は先ほどの冷酷な笑みとは違うどこか悲しげな笑みを返し唯璃亜と音羽を見送った。
2人は戸惑いながらも桜の言うとおり、あの場所に向かった。
2人が闇に消えて行くのを見届けて、桜は初めて自分の頬に乾いたはずの涙が新たに流れていることを
知った。それに気づくと、とどめることのできない悲しみがあふれ出した。

「か…さ、ま。かあ…さま。―――ッ!お母様――――!!」

桜は耐えられなくなり地面に膝をつき、泣きだした。
大好きだった母。あこがれの存在だった母。その母が死んだ。
それは、まだ幼い桜の心に大きな傷を残した…。

2012/02/18 18:40 No.11

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

            +。゜.*+.゜。*+゜.・*+。゜.*+

「そうか…アイツ”人間”を捨てたのか…」

桜はポツリと呟いた。
あの時のヤツと昨夜のヤツとはすべてが違った。アイツが放っていたものそれは”妖気”だった。
この10年間でヤツに何があったか知らない。けれど、あのままヤツを放っておくわけにはいかない。
昨夜もそうだったが、ヤツは人間を襲っている。別に人間がどうなろうとも本当のところ桜にとってどうでもいいこと。
けれど、母との約束だから…桜は守っているだけだ。

「さて、これからどうするか…。あまり気にはのらないけど、人里におりるか…」

桜は渋い顔をした。桜女一族の屋敷は人里から遠く離れている場所に建っていた。
だから、妖が出たなどの情報は一切入ってこない。知りたければ、人里におりるしかない。
母はどこぞの貴族の屋敷の女房として働き、情報を得ていたようだが…自分はどうするか。

「…考えたって仕方ないか。ひとまず、おりてみるか…」

ハァとため息をつき、人間の姿に変化する。
気配をさっして来たのだろう。瑠輝と夕凪がバタバタと騒がしい足音をたててやってくる。

「桜様!こんな時間にどこへ…」
「私も御供します!」

こいつも!と夕凪が瑠輝の耳を引っ張る。
桜は苦笑して頷いた。夕凪は嬉しそうにしながら人間の姿に変化する。
瑠輝も同様だ。桜は瑠輝と夕凪を連れて人里――都へと急いだ。

2012/02/21 15:29 No.12

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

「…それにしても、人里はとても騒がしいですね…」

瑠輝が呆れたように呟く。
桜たちは屋敷を出て都に居た。騒がしいことこのうえない。

「そうね。でも、これはこれで役に立つかも…情報収集にはうってつけじゃない?
…夕凪、大丈夫?」
「だ、大丈夫です!心配には及びません!」
「そんな青い顔して言われても説得力ないぞ…」
「ッるさいわね!…うっ」
「本当に大丈夫かよ…」

瑠輝が呆れたように呟く。
夕凪は青い顔をしながら瑠輝を睨む。今まで人里にはたくさん行ったが
そういえば、夕凪を連れて来たのはほとんど夜だったなぁ…と、桜は思い出した。
昼間に出るのは本当にまれで連れてくるとしても瑠輝か小さなころから親しい者しか連れてきたことがなかった。
などなどと、過去の事を振りかえり、前などまったく見ていなかった桜に何かが勢いよくぶつかってきた。

「うわっ―――!!」
「桜様!!」

桜は勢いで転びそうになったのを、瑠輝がなんとか桜の手をつかみ阻止した。
勢いよくぶつかってきたものは、額を抑え涙目になりながら桜を見上げる。
桜を視界にとらえた瞬間、「あっ」と声をあげ桜を指差した。
桜も顔を見た瞬間に目を見張った。

「さ、桜―――っんー!!」
「姫様!そのような大きな声は出してはなりません!ほら、御覧なさい。皆さま驚いているではありませんか…」

少女が大声で非常にまずいことを言いそうになったので桜は自らの手で少女の口をふさぎ
驚きこちらを振り返る都人達に怪しまれることのないようにに女房のふりをして、ズルズルと少女を人気のない場所に引きずり込んだ。

「――プハッ!もう、何するの?死ぬかと思っ…」
「死ぬかと思った…はこちらの台詞だ。あんなに大声で…お前何か私に怨みでもあるのか?」

少女の言葉の続きを言わせまいとするように、桜は恐ろしいほど冷たい目で少女を見下ろす。
この少女、昨夜奴に襲われそうになっていた娘だ。身につけているものからして
どこぞの貴族の姫君だ。さらに、彼女の性格を考えてみると今は脱走中なのだろう。
少女はあまりにも冷たい目にさすがに言葉を失う。桜はそんなことを気にせずに言の葉をつむぐ。

「お前が屋敷から脱走しようが、死ぬかと思おうが私には関係ない。だがな、私を巻き込むな!
次にあんなに大声で私の正体を言おうものなら全力で消してやろう…」

何故だろう。桜様の周りにだけ吹雪が見える…。
双子は同じことを思い、そろりと後ろに後ずさる。
が、鈍い少女はそんなものは見えず首をかしげた。

「どうして分かったの…?私が屋敷から逃げ出して来たって…」
「そんなことっ―――お前の性格を考えればすぐに思いつくことだ!」
「まだ、二度しか会っていないのに…不思議な方ね…」
「お前の性格はとても単純だな…」

桜は額を片手で覆いハァとため息をついた。
助けた人間にまさかもう一度会おうことになろうとは…。



2012/02/22 21:18 No.13

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

しかも…こんな厄介な性格のやつに…。
少女は首をかしげる。「どうしてため息なんかついているの?」とでも、思っているのだろう。
本当に単純で思考を読みやすい…。

「はぁ…まぁいい。ん?そう言えば、お前はどこかの貴族の姫君…だったな?」
「え?えぇ…。一応…ね」

桜は思い出したように少女にたずねると、少女は曖昧な返事をする。
”一応”とはどういうことなのか…。まぁ、これは後で聞こう。
ちょうど良かった。この少女の女房になれば…情報が集められる。

「少し…頼みがあるのだが…良いか?」
「なぁに?私でよければ聞くわ」

桜はおずおずと話しをきりだす。
少女は首をかしげた。

「私をお前の女房にしてくれないか?」
「えぇ、いいわよ。あなたのような楽しい人がなってくれるなんて嬉しいわ」

桜は目を見開いた。
まさか、こんなにすんなり決まるとは…。
この少女が理解してくれているのか不明だが、まぁ、これはこれでいいのだろうか?

「あぁ、そうだわ。私の女房になってくれるのなら私の屋敷に招待しなくてはね。ついてきて!」

桜は上機嫌な少女の後に複雑な気分でついて行った…。

2012/02/24 20:25 No.14

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

           +。゜.*+.゜。*+゜.・*+。゜.*+

「真白様!!いったい今までどこに行ってらしたのですか?!お稽古の時間に毎回毎回抜け出してもらわれては困ります!!」
「イヤ…ちょっとね。ごめんごめん。次からはしない―――」
「その言葉は聞きあきました!逃げ出すたびに毎回毎回そういわれては信じたくても信じられません!!」
「うっ…それは…そうなんだけど…」

毎回抜け出しているのか…。
これは、とんだお姫様だ。というか、彼女の名前は”真白”と言うのか…。
桜と夕凪、瑠輝は少女――改め、真白の屋敷に来ていた。
屋敷の中に入った瞬間に今、泣きながら真白に説教をしている女房が風のようにとんできて、
真白の姿を認めた瞬間に涙を流し…今、現在にいたる。
女房と真白は口喧嘩のようなものを桜たちの目の前でくりひろげていた。
今のところ真白に勝ち目はない…きっと、これからも真白に勝ち目はないだろう。
なんせ、一度しか言い返していないのだから…。

「真白様が逃げ出すたびに、私がどれだけ心配しているか…」
「ごめんって…機嫌を直してよ、ね?」
「ね?では、ありませんよ!ね?…では!!」

あ〜ぁ、かわいそうに…余計に機嫌を損ねてしまった…。
真白は自分の言ったことで余計に女房が怒ったことに困ったような顔をする。

「しょうがない、助けの手を差し伸べるか…その前に、私たちは忘れられていないよな?」
「さぁ…?少なくとも、あの娘は忘れていないでしょう…。女房の方は知りませんけど…」

瑠輝が首をかしげて桜の問いに答える。
女房の方は…きっと、自分たちなど目に入っていないだろうな。
桜は少し考えたのちのこの答えを出すと、出来るだけしおらしく二人に話しかけた。

「あ、あのぅ…よろしいでしょうか…?」


2012/02/24 20:02 No.15

麗愛★Jzx8odi3PJ_rHL

―――――我ながら…少し…あれかなと思った…

瑠輝と夕凪は驚いたように桜を見て、女房は初めてこちらに気づいたように目をやる。
桜は夕凪と瑠輝を目で黙らせ、桜はもじもじとした。

「あ、どうされましたか?」
「い、いえ!あの…真白様の許可をへて今日から女房になります。”桜子”と言います」
「女房?!真白様…何を勝手に…!!!」
「い、いいじゃない!この方はとても優秀よ、それに、私自身とても気に入ったの」
「ですが―――!!!」
「やけに騒がしいですね…どうかいたしましたか?」
「奥様―――!!」

まぁ、圧倒的に女房の口数が多い。
突然、聞こえた落ち着いた声音にふりかえるとそこには美しい女性が立っていた。
女房はこの方を”奥様”と言った。真白の母親か…。
女性は桜の姿をとらえると、驚いたように目を見開いた。

「美桜…?」
「え…?」

この女性は今、何と言った?美桜…と言わなかったか…。
瑠輝と夕凪も驚いている。”美桜”とは、桜の母の名前だ。
何故、この女性が母の名前を…。

「あ、何でもないわ。気にしないで。それより、騒がしいわね。香須美。どうしたの?」
「実は…姫様がこの方を自分の女房にしたいと…」
「この方を…?」

女性は改めて、桜の方を見る。香須美と言われた女房は少しおどおどしている。
真白はどうしたらいいものかと、悩んでいる。女性は穏やかな笑みを浮かべた。

「いいじゃない。別に。真白が自分からこんなことを言ったのは初めてね。よほど、この方を気に入ったのね」
「あ、ありがとうございます!お母様!」

真白は嬉しそうに頬を紅潮させて頭を下げた。
女性はそれを穏やかな笑顔で見ていた。桜の方に視線を向ける。

「えっと…あなたのお名前は…」
「桜子です。あの…少し聞きたいことが…」
「聞きたいこと?何かしら?私が答えることができるものなら…言ってちょうだい」
「美桜…お母様の名前を何故、奥様が知っておられるのです?」

女性は少し驚いたような顔をした。そして、ぽつりと「お母様…そう、あの人の娘…」と呟いた。
それから、ニコリと微笑した。

「そのお話しは…明日、私の部屋に来て下さいな。そこで、お話ししましょう」
「明日…心得ました」

桜は少し訝しげな顔をして、女性に頭を下げた。

2012/02/25 14:30 No.16

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

―――――翌日。

桜は言いつけどおりに女性の部屋を訪ねた。
着ているものは昨日と違い動きにくい…。それほど距離のない女性の部屋を訪ねるのに
とても苦労した…。いっそのこと、何枚か脱ぎ捨ててやろうかという考えが一瞬浮上したが
頭を必死にふって打ち消した。そんなことをしようものなら、すぐさまここから追い出されてしまう…。
それだけは、何とか避けたい。やっと見つけた情報収集場所なのだ。今追い出されてはとても困る。
―――――…そういえば、瑠輝と夕凪はどうしたのかしら?
昨日から姿が見えない。屋敷に帰ったのだろうか?
そんなことを思い、女性の部屋の前でうろうろしていた桜はいきなり御簾が上がったのでびくりとした。
思わず身構えると、驚いたような顔をした香須美が見えた。

「先ほどから何か気配が感じると思えば…あなたでしたか…」
「気配って…私は妖か何かですか…」

まぁ、実際半妖なのだが…。
桜が少し呆れたような顔をすると香須美かクスリとほほ笑んだ。

「そうね。言い方が悪かったわ。あ、奥様がお待ちです。どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

昨日、あんなに真白を追い詰めていた香須美は普通はあんな性格ではないらしい。
あれは、真白を思うがゆえに出てきた性格だと言う。
それを聞いた時、人はこんなにも変わるのかと驚いた。
女性とは御簾ごしで対面した。昨日、顔を見てしまったのだが普通の成人女性は御簾ごしで
女房をかいして言葉を伝える。まぁ、そんなに距離がないため声がまる聞こえなのだが…。
桜は端座すると手をつきお時儀をした。

「奥様、桜子でございます。こんな朝早くに失礼ですが…お話を聞かせてもらえますか?」
「えぇ。いいでしょう。皆さん、少し席をはずして下さいな」

女性がそういうと近くに控えていた女房達が席をはずす気配がした。
それを確かめると女性は一度深呼吸をした。

2012/02/27 17:47 No.17

麗愛@azalea★Jzx8odi3PJ_rHL

「その前にそろそろ猫を被るのやめたらいかがかしら?」

女性は御簾の中から出てきて微笑した。
桜は驚いて目を見開いた。女性が御簾から出てきたこともあるが、なにより自分が猫を被っていることに
気づかれたからだ。一瞬の沈黙ののち桜はふっとほほ笑んだ。

「ばれてしまったのなら仕方ないな。よく分かったな…女」
「当たり前じゃない。美桜も初めは猫を被って来たんだから。それにしても、随分口調が変わったわね」
「それは、お互いさまじゃない?」

先ほどの穏やかの性格はどこえやら。
少し悪戯っぽい笑みを口の端にのせて女性はこちらを見据えている。
桜は少し挑戦的な笑みを作り女性を見つめた。

「あ、それと私の名前は晴夏よ。さて、私も名乗ったことだしあなたの本当の名前を教えていただきましょうか?」
「……桜だよ」

随分と性格が変わったものだ。桜は少し面倒そうにしながら名前を名乗った。
女性――晴香は「そう…」と呟いた。
桜は少し訝しげな顔をした。まぁ、いい。この話しはまたあとだ…それより…。

「さて、話していただこうか?何故、あんたは母のことを知っている?」
「あら、随分と直球ね。まぁいいわ。教えてあげましょう。美桜はここの屋敷の女房で…私のたった一人の友人だった」
「たった一人?あんた、寂しい子だったんだね…」
「うるさい!」

変なところに突っ込んだ桜に晴香は黙らせて、遠い目をした。

「さて、少し昔に遡りましょうか…」
「遡らなかったら話しは出来ないでしょう?」
「……」

晴香は無視を決め込んだ。

2012/03/02 20:30 No.18

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             +。゜.*+.゜。*+゜.・*+。゜.*+

「姫様、こちらの衣はいかがでしょう?鮮やかで姫様にとてもお似合いになりますよ」
「姫様、こちらの衣は……」
「姫様……」
「―――ッうるさい!少しは静かにしてくれない!?」

お父様に頼まれてなのか、それとも個人でなのか女房達が私のご機嫌をとるよう一生懸命になっている。
最初こそ我慢していたのだけれど、だんだん鬱陶しくなって私は怒鳴った。
私は今書物を読んでいるのに…どうして静かにしてくれないのかしら?

女房達がすごすごと去っていくのを横目に見ながら、私はため息をおとした。
うちの女房達はそれなりに高貴な育ちだ。だからなのかしら?限度…というか、今どんな行動をとるべきか理解して行動出来ていない。皆、何か光るものがあるからうちの女房をやっているのは分かっているわ…でも、それ以外はからっきし。

1人ぐらい…まともな女房が居てもいいものなのだけど…。
1度お父様に頼んでみようかしら?書物に目を落としながら私がそんなことを考えている時だった。

「あら?あなた…どうしたの?」

女房の不思議そうな声が聞こえた。
私は少し興味を持って立ち上がった。玄関のすぐ近くの大きな柱に隠れながら覗いてみると、そこには美しい女性が倒れていた。私は目を見開いた。こんなにもきれいな人が居たなんて…!!!!

女房がはオロオロしていた。
こういう客人をどう接していいか分からないのだろう。本当に、駄目ねぇ…。
私は玄関にまで出ると、女房は「姫様!!!」と驚いた声を出す。

「その方を私の部屋に通してちょうだい。それから、水と手拭を用意してちょうだいな」
「しょっ、承知しました!」

女房は少し焦りながらも急いで水と手拭を取りに行く。
ちょっと……この女性をどうやって私1人で運ぶのよ…。
私はため息をついた。仕方ない、お兄様を呼ぶか…。

私には3歳離れた兄が居る。
私は兄の部屋を訪れた。

「あのー……お兄様、少し良いでしょうか?」
「ん?あぁ、いいよ。どうした、晴香」

お兄様は都で人気の殿方。その笑顔を見たら女性なら誰でも卒倒してしまうと言うけれど、慣れたらどうということはないわ。私は玄関で倒れている女性を運んでほしいと言うと、お兄様は快く了承してくださった。
私とお兄様が玄関に向かって、女性を私の部屋に運んでもらった。

私の部屋で寝かせてもらった。

「ありがとうございました。お兄様。お邪魔をして申し訳ございません」

私がその場に正座して畳に両手をつくと、深々と頭を下げる。
お兄様はふっと笑う気配がした。

「顔をあげてくれ。どうして兄妹なのにこんなことを言わなければならないんだ…。お前は本当に礼儀正しいな」
「そう…ですか?」

お兄様の笑いを含んだ声音に私は顔をあげて、首をかしげる。
コレが普通じゃないの?私が座ったままお兄様を見つめていると、先ほどの女房が水と手拭を持ってきた。
私は礼を言うと、せかせかと作業を始めた。

2012/04/03 23:28 No.19

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手拭を水に浸して、硬く絞る。
それを女性の額において、ひとまず私が出来ることはコレだけ。
確か、女房が薬師を呼びに行ったはずだから……もう少しでいらっしゃるわね。

私はふぅとため息をつくと、正座をしたまま目を閉じる。
初めは眠るつもりなんてなかったのだけれど、私の意識はとろとろと眠りの淵に沈んでいった……。



誰かに頭を撫でられたような気がして、私はゆっくりと目をあけた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。開け放たれた御簾からは、鮮やかな橙の光が部屋を照らしている。

「逢魔ヶ時……ですね」

りんっと降って来たその声に顔をあげると、女性が身をおこして
険しい目で外を見つめていた。私は驚いて声も出ない。ただパクパクと口を動かすしか
していない私に気づいて女性はニコッとほほ笑んだ。

「お目覚めですか?姫様」
「はい……。それより、起き上がって大丈夫なのですか?まだ寝ておられた方が……」
「平気です。もうすっかり。助けていただきありがとうございます」

改めて座りなおすと、女性は畳に手をつき深々と頭を下げる。
女性のとった行動は、当たり前のことだ。現に私も先ほどお兄様にやった。
けれど、私は”やること”には慣れているが、”やられる”のは慣れていないのだ。

小さな時に礼儀作法は叩きこまれたが、私は人前に出るのがあまり好きではないため
人に頭を下げられると言うのは、少々困る。
私がおどおどしているのに気がついたのか、女性は不思議そうに首をかしげる。

「もしや、姫様はこのようなことにはまだ慣れていらっしゃらないのですか?」
「はい……」
「そうですか。あぁ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私の名前は美桜。美桜とお呼びください」
「わ、私の名前は晴香! 晴香って呼んで!」
「さすがに……姫様を呼び捨てにするのは、少々まずいですので……晴香様とお呼びしましょう」
「――っうん!」

ピンッと人差し指をたててほほ笑む女性――美桜を見つめて頬を染めて頷いた。

2012/04/30 18:59 No.20
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