今君に想いを伝えてしまえば( 初心者のための小説投稿城 )千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2 今、君にこの想いを伝えてしまえば―― 2011/12/18 21:02 No.0
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今君に想いを伝えてしまえば( 初心者のための小説投稿城 )千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2 今、君にこの想いを伝えてしまえば―― 2011/12/18 21:02 No.0
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千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「朱莉っ、はよー」
眠たい頭を起こしたのは、君。
「広瀬 伊織(ヒロセ イオリ)」。
私のいとこであり、異性で一番仲が良い友達。
……そう、友達。
「あ、おはよー。
伊織……、なんでそんなに朝から元気なんだ……。」
でもやっぱり眠くって、カバンを持ってない方の手で目を軽くこする。
「今日、カバン重くない? 伊織君が優しいから持ってやるよ。」
そう言って、私の手から優しくカバンをとった。
白い歯を見せてニカッと笑う君は、私の心臓をドクン、とひとつ大きく脈打たせた。
「あ、ありがと……。なんかごめん。」
「別に良いよ〜」
どうして君はそんなに優しいの?
私の事を友達だと思ってるから?
君にとって私はただの友達なの?
何度そう思ったことだろう。
<<朱莉みたいな友達が俺に居て良かったよ。朱莉と話してると元気出るわ。>>
1年前に君に言われた言葉を、私はまだ覚えているんだ。
忘れたいけど、忘れられなくって。
君が私をどう思ってるかなんて、もうとっくに答えが出ているはずなのに。
もう……、ハッキリと「友達」って言われたじゃん。
だけど、君が優しくしてくれるから、私は一層君が好きになって、忘れられなくなるんじゃん……。
「ふ〜。伊織と朱莉は仲が良いねっ! もう付き合っちゃえば?」
私達が他愛もない会話をしていると、後ろから話しかけてきたのは、
「佐伯 結衣(サエキ ユイ)」。
彼女はサバサバしていて、優柔不断な私にとって、お姉さん的存在。
私と伊織の事を名字で呼ぶ人は、この高校にまず居ない。
さっきもあった通り、私と伊織はいとこで、名字も「広瀬朱莉」・「広瀬伊織」と同じだからだ。
「俺らは付き合うとか付き合わないとか、そんなんじゃないからー。
な、朱莉?」
伊織にそう問われた私は、無理に作り笑いをして、「うん」とうなずく事しかできなかった。
荒々しく吹く冬風が、まるで私の心を表しているようでドキッとした。
「ふ〜ん……。お似合いだと思うんだけどな?」
結衣は、口を少し尖らせ、不満そうに言った。
私だってそうしたいよ、言える訳もない言葉を、心の中で叫んだ。
そのまま、三人で学校に向かった。
教室で見る伊織は、男子にも女子にも人気で、男女問わず人気者。
それに比べて私は……。
極度な人見知りだし、人前でしゃべるのは大の苦手だし、なんかモゴモゴしてる、って言われる。
「優しいね」、「朱莉って物静かで癒される」、「朱莉ってすごく性格良いじゃん」、「朱莉ちゃんって完璧!」
私は優しくもないし、物静かってのは、ただしゃべるのが苦手なだけ。
性格も良くない、自己中だ。
……完璧なんかでもない!!
結衣と伊織だけは、私の事を普通の子と同じようにみてくれる。
だけど、周りの目に映る私は、完璧で物静かな子。
周りの目にうつる自分と、本当の自分は、まるで違う。
だけど、中々その殻から抜け出せず、若干、私は演じている。
「朱莉ちゃん、おはよ〜。んで、この前言った理科のレポート見せてくれない?」
クラスの女子の中心的存在、「山咲 すず(ヤマサキ スズ)」が私が登校してきて早々、私の机の前に立ち、
脅迫するような言い方で言ってきた。
そういえば、三日くらい前。
山咲さんから「理科のレポート見せて」って言われてたんだった。
私の性格からして、断ることもできず、「こちらこそ見せる事が出来て光栄です」……みたいな笑顔で承諾した。
急いでカバンの中からクリアファイルを取り出して、その中にある理科のレポートを山咲さんに手渡す。
「サンキュッ」。山咲さんはそう言うと、私の手からレポートをひったくった。
伊織が私の手から優しくカバンをとってくれたのとは偉い違い。
これでいいのかなぁ……。
そう思いつつも、私はどうする事も出来ないでいた。
考えはするけど行動に移せない。
私を表すとしたらきっとこの言葉だろう。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「朱莉? なんで今山咲に理科のレポート渡してたの?」
山咲さんに理科のレポートを渡して、2分くらい。
薄汚れた天井を見上げ、ほっと一息ついてた時。
後ろから伊織が話しかけてきた。
「え、見てたの? 山咲さんがレポート見せて、って言うから……、見せた。」
すると、伊織はムッとし、眉毛に少し力を入れ、小さな声で私にささやいてきた。
「俺、悪口とか嫌いだから……、あんまこういうの言いたくないんだけどな?
朱莉のためっ。山咲って、優等生のレポートとかそういうの借りては、ほとんど丸写ししてるらしいよ?
朱莉以外にも、森山とか笠井の借りてたの見たし。」
「え……。でも、噂でしょうっ? 山咲さんは……、そんな人じゃないと思うんだけどな?」
悪口が嫌いな伊織が、私にそんな事を言うのは、どうしてだろう。
私の事をちょっと心配してくれてた? と少し期待をして、悲しい思いをするのはいつもの事。
「ん〜……。まぁ、そういうところが朱莉っぽいんだけどさー。
第一な! まず、人にレポート借りる所からおかしいからっ。
今度から、『ごめん、まだ出来てないんだー』って言った方がいいぞっ。」
半分笑いながら、伊織は私に注意をした。
はいはい、わかりました。 と言いながら、私は本当はわかっていない。
そんな事、言えないな。
ほら、また私はチャンスを失っていく。
自分を変えるチャンスを。
勇気を出せば、変えられる事なのに。
逃げてばかりで、悪循環のまま。
君がそう言ってくれてるのに、どうしてだろう。
そんなに言うなら助けてよ、っていうワガママな感情が出てくるのは。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「朱莉ちゃん、ありがとね〜。本当、朱莉ちゃんのおかげで助かったわ〜。」
私が山咲さんにレポートを渡してから、国語の授業が過ぎ、数学の授業が過ぎ。
数学の授業が終わった後、山咲さんはまた私の席の前に来て、レポートを返してくれた。
山咲さんが私の丸写ししていたかは分からなかったけど、私のレポートには何もされていなかったし、
そんなに悪い人には見えないのに。
伊織の言葉が頭の中をクルクルと回っていたので、手でフッフッと払い飛ばして、
またレポートをファイルの中に閉まった。
<<ぐぅぅ〜……>>
お腹がいきなりなった。
そういえば、最近、よくお腹が減るようになった。
誰にも聞かれてないよね……? と前後左右に振り返ると、
隣で伊織がニヤニヤと笑っていた。
やばい……。聞かれてた……?
と思ったが、聞かれているに決まっている。
イタズラ好きでちょっとからかい好きの伊織が、あんなにニヤニヤと笑っているのだから。
私は、プイッと視線を伊織からはずし、伊織と反対側の窓へと視線を移す。
「お、おいおい!? 今ちょっとシカトした!?」
伊織はまるで小学生のようにワーワーと騒ぎ、窓の方に移動して、また私の視界へとはいってきた。
「シカトも何も、私と伊織、今喋ってなかったじゃんっ」
そう言うと、伊織はまるでさっきの私の真似をするように、ぷいっとそっぽを向いた。
本当、伊織ってば子供だ。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
序盤 〜主な登場人物編〜
*広瀬 朱莉(ヒロセ アカリ)
楓山高校1年。吹奏楽部。
極度の人見知りで弱気。
言いたいことが言えない自分にムシャクシャしながらも、
自分を変えられない自分に失望感を抱いている。
伊織とはいとこ同士である。
一番の友達は佐伯結衣。
好きな人は広瀬伊織。
*広瀬 伊織(ヒロセ イオリ)
楓山高校1年。サッカー部。
陽気で明るく、人気者。
少しアマノジャクな所がある自分が嫌い。
素直になれず、時々ムキになる事がある。
朱莉とはいとこ同士。
*佐伯 結衣(サエキ ユイ)
楓山高校1年。女子バスケットボール部。
サバサバしていて、姐御肌タイプ。
ゆえに、男子にも女子にも人気である。
曲がったことが大嫌い。
思ったことをハッキリと言ってしまう自分をなおしたいと思っている。
また、自分とは正反対の朱莉を尊敬している。
一番の友達は広瀬朱莉。
*山咲 すず(ヤマサキ スズ)
楓山高校1年。女子バスケットボール部。
クラスの中心的存在であり、明るい。
だが、表と裏が激しいため、女子の一部には嫌われている。
噂話などをキャッチするのが早く、また自分自身にかかわる噂も多い。(恋の噂などなど)
ちゃっかり者で、嫉妬心が強い。
なんでも完璧な朱莉と、部活で良い成績ばかりを収めている結衣を、本当はあまり良く思っていない。
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びゅう〜っと冷たい風が窓から入り、あたりを一気に冷たくする。
私もその“あたり”に含まれていて、一気に体が冷え込み、指先のかじかみも感じた。
時間は止まることなく、どんどんどんどん進む。
私が山咲さんにレポートを貸したことなんて、もう「昨日」として扱われるのだから。
もう少しくらいゆっくりに進んでも良いんだよ、時間さん?
ぬくぬくした布団から出るのに10分かかり、急いで朝ごはんを口にほおばり、
髪をセットする。
手袋をし、マフラーをし!
寒がりな私は、毎朝完全防寒である。
そして、いつもの道を行き、学校へと向かう。
私の通う高校は、家から徒歩、自転車で行ける距離であるため、ちょっとくらい寝坊をしても大丈夫!
「朱莉おはよー」「あかりんおはようっ」「朱莉ちゃんおはよう〜」
どんどん追い越していく友達に、挨拶をしていく。
みんな優しくて、良い友達を持ったなぁ、とたびたび思う。
急いで校舎に向かって走り、職員室へと急ぐ。
今日、私は日直なので、名札と日直日誌をとらなければいけない。
コンコン……
やっぱり、いくつになっても職員室っていうのは苦手である。
結構遠慮気味にノックをすると、そろそろ〜っと中に入った。
「お、おはようございますっ……。1年B組の広瀬朱莉です。
日直日誌と名札をとりに来ました!」
目で担任の夏目先生を探すと、なんだか知らない女の子と居た。
先輩にも、こんな子居なかったと思う……。
もしかして転校生?と少し胸をドキドキしながら、日直日誌と名札をとり、職員室を後にした。
階段を上り、教室にはいると、教室の中はある話題で持ち切りだった。
「あ、朱莉おはよう!」
結衣がキラキラとした目で挨拶をしてくれて、私もそれに返して挨拶をした。
「それで……。みんな何の話をしているの?」
今来た私には、それがわかるわけもなく、キョトン、とした顔で結衣に聞くことしかできなかった。
「今日、何人かの男子が知らない女の子を見たんだって!
一年生に間違いなかったようで、すごく可愛かったらしいよ。
それで、夏目先生と話をしていたから、もしかして1Bにくるんじゃないか、って。」
結衣は、少しあきれたような顔をすると、噂話をしている男子の方を向いた。
そこには、お調子者の男子が何人かと、伊織が居た。
……可愛い女の子、か。
少し胸がズキッとしたのはどうして?
……やっぱ、君が好きなんだね、私は。
10分くらいして、チャイムがなり、みんながわぁーっと席に着きだす。
そして、担任の夏目先生が教室に入ってきた。
口には出さないけど、みんなの目は泳ぎまくり。
そんな人たちが今何を思っているのか、バレバレだった。
「えーっと、まずー……。今日は席替えをします。
もうすぐ1ヶ月経つし、冬休み前に席替えでもしておこうか。」
そういうと、先生はみんなにクジを引かせた。
それどころではない男子達は、もう焦りまくりのなんのって。
すぐなにかある度に騒ぐ男子は、少し……いや、だいぶうるさかった。
席替えの結果は、なんだか真ん中らへんの少し後ろ。
でも、なんと!
結衣が私の斜め後ろの席だった。
伊織は、斜め2つ前。
後ろから眺めることができる。
……だけど、あれ?
伊織の隣の席が空いている。
……その時、嫌な予感がした。
ううん、予感なんかじゃない。
確信をしたんだ。
あぁ、伊織の隣は、朝見たあの子なんだって。
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それから、夏目先生が自慢げに「今日は転校生が来るんだよ」と言った。
「待ってました」と言わんばかりの歓声が教室に響く。
「では、日向さん」
先生がドアの方を向いて呼びかけた。
日向さん……っていうんだ。
「はい」
“日向さん”がドアを開けて入ってきた。
その瞬間、みんなの目はまん丸になった気がする。
噂通り、日向さんはとんでもなく可愛かったのだから。
少し毛先がカールした、栗毛色の肩までの髪。
ツヤツヤと光っていて、とてもフワフワそうだ。
大きなまん丸の瞳に長いまつげ、それに、キュッと口角の上がったあひる口も魅力的だ。
「えっと、はじめまして!
日向 明花(ヒナタ メイカ)と言います。
前の中学校では吹奏楽部に所属していて、フルートを吹いていました。
なので、この学校でも吹奏楽部に所属したいと思っています!
まだ、この学校の事はあんまり分からないので、色々教えていただけると嬉しいです!
よろしくお願いします!」
そう言って、明花ちゃんはひとつお辞儀をした。
容姿までとびっきり可愛いけど、喋ってるときに時々見せる笑顔や、
甘く優しい声も極上だ。
美のカンペキ……。
私はそう思った。
「ではー、えーっと、伊織の隣に座ってください。」
私が一番聞きたくなかった言葉を、夏目先生が軽々といった。
……まぁ、別に嫌なことなんて起きないでしょ。
絶世の美女が……、伊織の隣になったって……。
それから授業の時間、「見ちゃダメ」と思っていても、伊織と明花ちゃんを視界の端っこに残してしまっていた。
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それから放課後。
空に赤みがかかり、窓から見える山は火照っていた。
クラスのほとんどは部活に行き、教室に残っているのは、私と桧山 恵梨奈(ヒヤマ エリナ)ちゃんだけになった。
私は桧山さんの事を「桧山ちゃん」と呼んでいて、まぁまぁ仲がいい。
桧山ちゃんは、とても霊感がある。
黒のロングヘアーがとても綺麗で、鼻筋も通っており、とても美形である。
桧山ちゃんは帰宅部のため、教室に残っている。
ちなみに私は吹奏楽部だが、今日は休みの日。
「朱莉ちゃん、今日、ずっと伊織君の事見てたでしょ?」
桧山ちゃんの唐突な言動に、少しビクッとする。
なんの前触れもなく、無表情で言うなんて、やっぱり桧山ちゃんはスゴイ。
桧山ちゃんは勘が鋭く、あなどれない人物。
「えー……あぁ……。桧山ちゃん、もしかして私の想いに気づいてる?」
「まぁね。朱莉ちゃんってば分かりやす過ぎなんだもの。」
やっぱりそうか、と肩を落とすと、クスッと桧山ちゃんが笑った。
「そういうところが、朱莉ちゃんの良いところでもあるんだけどね。」
桧山ちゃんに褒められるなんて、久しぶりだった。
最近、桧山ちゃんと喋ってなかったからなのかもしれない。
桧山ちゃんの優しい笑顔を見るとなんだか落ち着いて、懐かしい気分になった。
「じゃあ、私はこれで帰るね。……あ、あと、朱莉ちゃん。
朱莉ちゃんに、疲れとか悲しいオーラが見える。
無理はしないで……あと、色々な物に気をつけて。
そういうオーラがでてる人って、対外後に嫌なことが起こるから。」
とっさに後ろを振り向くけど、自分にオーラなんて見えるわけがない。
そのうちに、桧山ちゃんは教室を出て行ってしまった。
「桧山ちゃん……。そんな怖い事言って去らないでよー……。」
どんどん背中がゾクゾクしてくる。
あぁ、こんな時に本当に怪奇現象が起きたら、私倒れちゃうかも……。
トントン……
二回くらい肩に重みがのった。
あれ、今誰か肩叩いた?
いや……、でも、この教室には誰も居ないはずだから……。
窓から冷たい風が入ってきて、ひゅうっと私の頬をなでた。
全身に寒気が走り、ゾクゾク感が増した。
「朱莉……さんっ?」
な、名前呼ばれたぁぁぁぁ!
どこかで聞いたことのある声なものの、やっぱり誰の声だかわからない。
もういいや、と思って振り向くと……
そこには、肩まで伸びた髪の女…………!!
「って、明花ちゃんかぁ……! びっくりした……あ。」
どうして自分はこんなにビビっていたんだろう、と思ったほど、簡単なことだった。
そういえば、明花ちゃんは吹奏楽部に入る予定だけど、まだ入っていないんだった。
思えば、明花ちゃんが居てもおかしくない状態だった。
「あ、驚かせちゃってごめんなさい!」
明花ちゃんはそう言って一礼すると、じっと私の目を見た。
うっ……。
人見知りな私には辛いし、明花ちゃんの丸い目がキラキラしている……。
「な、なんで明花ちゃんがここに……?」
「一回、二人で話してみたいな、って思ってて!
今さっき、図書室に居たんですけど、忘れ物に気がついて……。
桧山さんとお話をしていたので、入っちゃダメかなって……。
ずっとドアの所に居たんです。……もしかして、私盗み聞きしちゃった……!?
すみません、本当にすみません!!」
少し苦笑いをしながら、明花ちゃんは話してくれた。
……ドアの所に居た? ……明花ちゃんが?
じゃあ、私と桧山ちゃんの話が聞こえてたってこと……?
それって、明花ちゃんにも私の想いを知られてしまった、という事ですか―……?
「それで……、一番聞きたいことがあるんです。
朱莉さんに……、朱莉さんじゃなくちゃダメなんです……。」
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
突然の事で、思わず唇が震える。
会ったばかりなのに、自分の秘密がもしかしてバレていた、なんて
考えるだけで頭が痛くなりそうだ。
ずっと黙っている私に構わず、明花ちゃんは話を続けた。
「もしかして……、朱莉さんって伊織君の事が好きなんですか?」
やっぱり、感づかれていた。
明花ちゃんは私の顔色を窺うように、少し腰を低くして私の顔をのぞいた。
私と伊織はいとこであり、友達であり、恋愛対象には入らない。
結衣には、「いとこ同士で結婚はできるんだよ」と聞かれたけれど、
伊織が私の事をそんな風に思っているはずがない。
だから、いくら期待してもダメなんだ。
そんなの……とっくに分かっている。
「……うん。」
嘘がつけなくて、本当のことを言ってしまった。
深く、うなずいてしまった。
私は本当に馬鹿だ。
「……やっぱり……。
朱莉さんの視線とか追ってると、わかるんですよ。
伊織君と話してると、朱莉さん、顔真っ赤になってるし。」
私は、明花ちゃんの話を黙って聞いていた。
「だからなに?」なんて反抗的な態度も取れないし、ただ黙ってうつむいているだけだった。
「私も、伊織君が好きになっちゃったようです、多分。」
明花ちゃんのその言葉を聞いた途端、私は思わず顔を上げ、視線を床から明花ちゃんの目に移動させた。
そんな、初対面で好きになったなんて……。
「もしかして、『初対面で好きになるなんて、本当は伊織の事を分かってない』とか思ってますか?
一目惚れってヤツですね。伊織君、とっても良い人なんですよ。
色々と教えてくれて、私の事を気遣ってくれました。
それと……、朱莉さんの事をよく話していて。
朱莉さんと伊織君、いとこ同士なんですよね? いとこ同士で付き合うとか結婚とか……。
どうなんですか? 親御さんとか困りません?」
明花ちゃんの言葉ひとつひとつが針のように私の心に突き刺さり、思わず涙が出そうになる。
窓から入る冷たい風に、目の前に広がる残酷な現実、耳からはいる鋭い言葉。
その言葉は、いつか前にも言われた言葉だった。
私が、伊織の事を「気になっている」状況だった時。
伊織の事が好きな女子何人かが、放課後に私に迫ってきたんだ。
「いとこだからって、伊織君とベタベタしすぎでしょ」
「朱莉ちゃんと伊織君はいとこであって、それ以外に関係は何もないんだよね?」
思い出したくもない、過去。
忘れ去りたい、過去。
だけど、時々思い出してしまうのはどうしてだろう。
伊織が私を女の子として扱っていないのはわかっている。
だから、こんなに毎日が楽しいんじゃないか。
伊織が私の事を友達として扱ってくれているから、楽しいんじゃないか。
もし、もし伊織と付き合うことになったとして。
伊織の彼女が私ではいけない、という事もわかっている。
クラスの中心的伊織と、クラスの影的存在の私が、釣り合わないのも分かっている。
だけど、何事もスパスパ諦められるほど、私はハッキリしていない。
諦めのつかないことだって……あるんだ。
氷のように冷たい教室。
みんなの前では太陽のように温かい明花ちゃんは、
私の前ではうってかわって、氷のように冷たかった。
「そんなの……わかってるけど……さ。
好きなもんは、好きなんだから、仕方ないじゃん……。
それとも、私に諦めろっていうの?
明花ちゃんは……、なにがしたいのか分かんない。」
喉から苦し紛れに出た言葉。
今にも消えそうなか細い声で、私は明花ちゃんに訴えた。
窓から入るオレンジ色の夕日の光が、横から明花ちゃんの顔を照らした。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「別に……。
朱莉さんに何かしてほしい訳じゃないです。
けど、朱莉さん、今の状況で、伊織君に一番近い女の子ですよね。」
さっきの表情までとは違い、一瞬……、明花ちゃんが柔らかい表情になった気がした。
……気のせい?
「……えっ……。
でも、それは……!」
『でも、それは友達として』そう言おうとしたが、どうしても言葉が出なかった。
自分で心の中で思う分には、もう何度も何度も思っていることなのに。
自分の口からは……いつも上手く出ない。
「でもそれは、友達としてだからです」
怪しい笑顔で明花ちゃんが言った。
……なんだか楽しんでいるよう。
一番聞きたくなかった言葉。一番いやな言葉。一番嫌いな言葉。
今にでも耳を塞ぎたかった。
……だけど、そんなのかっこ悪い。
そんな私をあざ笑うかのように、クスクスッと笑う明花ちゃん。
「大丈夫ですよ。
朱莉さんの好きな人をバラしたりするような事はしませんから。
……すぐに結果を出しちゃ、つまらないですもんね?」
明花ちゃんは、また怪しげな笑顔でそう言った。
もう、こんな状況耐えらんない。
……ていうか、耐えてる意味がわからない。
すぐそばにあった通学カバンを手に取り、静かな教室を後にしようとしたその時、
「逃げるんですかぁ?」
愉快そうな明花ちゃんの声。
「……逃げるのは嫌いだけど、得意だよ、……私。」
私はそう言いはなつと、走って教室を出た。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
薄暗い外。
冬らしい冷たい風が吹き荒れ、私の心はもちろん、体までを凍らせるようで怖かった。
いつも見ている、見慣れた景色なのに、この時だけは
世界のすべてが私を責めているようだった。
荒々しい風に揺れる木々、ガタガタと音を立てて揺れる窓、道行く人。
「朱莉……?」
後ろから、聞きなれた声が聞こえた。
薄暗い景色の中、いつの間にか潤った視界の中、君の姿だけは私の目に映したくなかった。
……今君に会ったら、泣いてしまいそうだったから。
「伊織……。」
それでも私は、伊織の方へ振り向いてしまった。
「さっき、廊下を走ってるのを見たから、どうしたのかなって。
……走って追いかけてきたんだけど。」
からっとした伊織の笑顔に、つい涙がこぼれそうになる。
ただでさえ、涙目であるのに、伊織の笑顔ったら、本当にずるい。
「……な、なんでよ。走ってきたのっ?
別に……、私は元気だし……、別に……、どうもしなくて……、いつも通りで……。」
伊織に心配かけたくない。
ただその一心で、頭の中から言葉を探すけど、全然出てこない。
途切れ途切れで、喋ってる私も、訳がわからない。
「声震えてるし、動揺しまくりだろ。
……朱莉ってば分かりやす過ぎ。
……俺が思うに、その動揺ってのは、俺に知られたくないことだったりして。
だから、聞かないでおく。
でも、今は朱莉が心配だから傍に居させて?」
そう言って、伊織はまた笑った。
今度は、世界のすべてが私達の味方のようだった。
……ただの私の想像だけど、伊織と居る時は素の自分が出せて、安心しきれた。
……伊織が好きなだけなのに、明花ちゃんにどうしてあんな事を言われなきゃいけないんだろう。
「そういえば、日向が教室から一人で出てきたけど、なんか知ってる?」
日向……。明花ちゃんの事だ。
「……別に、知らないな。」
伊織から視線をそらして、そばにあった花壇の方を見る。
知っている、なんて言えない。
私が明花ちゃんにどういう事を言われたのか説明しなくちゃいけなくなる。
……そうしたら、私の想いも伊織にバレるって事でしょう?
伊織は優しいから、薄暗い夜に一人で歩く私を心配してくれて、
それと同じように、薄暗い教室に一人でいた明花ちゃんも心配するんだ。
……ちょっぴり悲しかった。
本当はすごく助けを求めたいのに、今すぐにでも泣きたいのに。
……でも、そしたら君は明花ちゃんの事を悪く思うでしょ?
……私の事を心配するでしょ?
そんな事はしたくない。
他人のイメージダウンにつながることはしたくないし、心配もかけたくないんだ。
「朱莉ってさ、お人好しすぎるんだよ。
いつも周りの目ばっか気にして、本当の自分を出してる?
自分が辛いのに、そんなに人の事気にしなくてもいいと思うけど?
辛い時は辛いって言えばいいじゃん。泣きたいときは泣けばいいじゃん。
……助けてほしい時は、助けてって言えばいいじゃん。」
私の心を見透かしたように、伊織が言った。
心をいやすような伊織の言葉に、なぜだか目頭が熱くなってくる。
……嫌だ、私泣いてるの?
「……ごめん、泣かせちゃった!?」
「ち、違う……! 伊織のせいじゃ……、ない、から……。」
必死に伊織を説得するけど、伊織はまだ心配してる。
……本当に、伊織は優しいと思う。
人を気にしすぎてるのは、伊織も同じでしょう?
なんだかくすぐったい気持ちになった。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「ただいまー」
「お姉ちゃんお帰りー」
家に帰ると、妹が迎えてくれた。
妹は今14歳で、「広瀬 夏帆(ヒロセ カホ)」。
弟は今13歳で、「広瀬 湊(ヒロセ ミナト)」。
妹は、いくつになっても人懐っこいので、よく「お姉ちゃん」と言ってくれる。
16歳の私よりもしっかりしている感じがする。
弟は……、なんだろう。
中学生になったせいか、前のように「ねえちゃーん」とは言ってこなくなった。
……しょうがないか。
「お母さんは……また仕事か。」
「……うん。」
母はいつも仕事で帰りが遅い。
その度に、部活で帰りが遅い私のために、夏帆が晩ご飯をいつも作ってくれている。
今日も同じだ。
「なんか、いつもごめんね。夏帆だって忙しいのに、ご飯作ってもらっちゃって。」
「いいってことよ〜。それに、お姉ちゃん料理あんまり作れないでしょ?」
何気なく夏帆が言った言葉が、心にグサッときた。
うん……、私、あんまり料理作れないんだよ……。
夏帆の作る料理は和風のものが多く、優しい味をしている。
そんな夏帆の料理を食べて、「夏帆は良いお嫁さんになるぞ」とつくづく思う。
ジリリリリリリリリ――……バコッ
窓からは暖かい日差しが入り、すずめが「チクチク」と鳴いていた。
いつものように目覚まし時計が鳴り、私はそれを止めるのではなく、ぶったたいた。
いつの間にか、「朱莉は丁寧」というイメージが辺りについているのだが、私はそんなに丁寧ではない。
母の作った朝ごはんを食べ、朝から早々、湊と洗面所の取り合いをし、夏帆はそれを見て笑っていた。
私は仕度だけはパッパッパッパッと行動でき、いつも家を出るのが一番早い。
寝坊も一度もしたことはないし。
「お、朱莉。」
またまた後ろから話しかけてきたのは伊織。
話しかけてくれる関係が、ずっと続けばいいのに。
でも……。
伊織の後ろに隠れていたのは、明花ちゃん。
ヒョコッとおどけたように伊織の後ろから出てきた。
「……あ……」
思わず、小さくつぶやいてしまった。
本当は、『明花ちゃん、おはよう』など、明るく振る舞えばいいものを。
「朱莉さんっ、おはようございます!」
語尾に音符マークがついてそうな明るい声で、明花ちゃんは言った。
「お、おはよう……。」
視線が泳ぐ。
伊織を見るわけにもいかないし、それ以上に明花ちゃんの目はもっと見れない。
無視なんて出来るわけがないので、一応挨拶をしておいた。
……やっぱり、私のときだけ冷たかったんだ。
伊織の前ではもちろん笑顔だし、学校の皆にもとびきりの笑顔で接している。
それから、伊織と私と明花ちゃんで挟むような形で歩いた。
伊織と明花ちゃんは楽しそうに話していて、私は一人。
「伊織君……じゃなくて、伊織って呼んで良いかな?」
明花ちゃんが言った。
お人好しなのは伊織も同じで、絶対OKするに決まっている。
「いいよ」
……予想通りだ。
伊織の事を「伊織君」と呼んでいるのは、1学年の生徒の中で学級委員と明花ちゃんくらいで、
後はみんな「伊織」と呼んでいた。
「伊織」と呼ぶのは当たり前なのに、それなのに。
私は伊織の事を呼び捨てで呼んでいるけど、明花ちゃんは君付け。
そこに、ちょっとだけ勝っているような感情があったんだ。
だから、明花ちゃんまでが伊織の事を呼び捨てだってわかると、悲しかったんだね。
「伊織も、私の事明花って呼んでいいんだよ?
日向って呼ぶんじゃ……、他の男子と同じじゃん。」
明花ちゃんは相変わらず伊織にアタックしまくり。
『他の男子と同じじゃん』
明花ちゃんが言ったこの言葉の裏には、きっと『伊織は他の男子とは違う』といった意味が隠れているのだと思う。
「んー、なんか……、違和感があるなー。
日向の事、明花って呼ぶの。
じゃあ俺は他の男子と同じで良いや〜。
俺が名前呼びしてる女子って言ったら―……。
朱莉だけかもしれない!」
裏の意味には、伊織は鈍感なので気づいていなかった。
いや、気づいてた? ……そんな訳はないか。
パッとこっちを振り向き、ニカッと笑う伊織。
私だけ……、なんだ。
伊織が名前呼びしてる女子って。
少しだけ……、ううん、すっごく嬉しかった。
また、ちょっとだけ勝ったような感情がこみあげてきた。
恋ってこういうものなの?
自分の幸せはもちろん喜ぶけど、他人(明花ちゃん)の不幸せも喜んでしまうものなの?
勝ったような感情に浸ってしまうものなの?
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「へぇ〜。良いなぁ、そういう関係って。
それにしても、仲良いね、伊織と朱莉さん。
付き合ったり、って事はないのー?」
明花ちゃんがそう伊織に聞いた。
……どうせ、答えはわかってるくせに。
伊織が私の事を女の子として見てくれていないことなんて、分かっているくせに。
どうしてそんな分かりきっている事を聞くの?
……あぁ、そうか。
明花ちゃんだって、他人の不幸せを喜びたいんだ……。
私が勝ったような感情に浸っていたから、それのお返し……なのかな?
「朱莉と俺は仲良いよー、すっごく。
けど、付き合うってのは……ないんじゃないか〜?」
「だよね、伊織と朱莉さんは、“いとこ”同士、だもんね。」
伊織の言葉が心に突き刺さり、それを追うようにして明花ちゃんの言葉も突き刺さった。
あぁ、やっぱり、そうなんだ。
明花ちゃんも私も分かっていた、そんな事。
だけど、本人に言われるのは、それ以上にものすごく……ものすごく辛い。
「朱莉……、」
「私……、用事思い出したから先いくね!!」
自分でも驚くような強い声を出して、私は楓山高校へと走り出していた。
伊織が話しかけてくれたけれど……、それを振り払って。
わかってる、わかってるよ、そんな事……!
伊織が私の事をどう思ってるかなんて……。
今も、未来も。
伊織が私の事を女の子として見てくれる日は、きっと無いんだろうな。
私は、自分なりにすごく頑張ってきた。
明花ちゃんのように……、アタックは出来なかったけど。
無理に気取るより、ありのままの私を恋愛対象として見てくれるように。
……女の子、恋愛対象として見てくれるだけでも、私は幸せだったのに。
君の彼女になりたい、なんてことは言わない。
だけど、恋愛対象として見てくれることを目標としてたんだよ、私は。
そんな目標を、一刀両断にされたら……。
諦めた方がいいのかな、伊織の事。
伊織と私は釣り合っていない、伊織の隣に居るのにふさわしいのは……、悔しいけど明花ちゃんなんだ。
こういう時に思い出すのは、小さいころの思い出ばかり。
かくれんぼをしていた時、私が隠れ場所がなくてウロウロしていた時、
君は自分の隠れていた場所を私に譲ってくれたでしょ?
私がカニを食べるのに、やりにくそうにしていた時、
君は「しょうがないからやってあげる」なんて言って、とってくれたでしょ?
たくさんたくさん……、優しくしてくれたでしょ?
優しくしないで、なんて言わない。
だけど、君は違う、違うんだよ。
他の女の子とは違う風に私にやさしくしてくれるから、少しだけ期待しちゃうんじゃない。
もう……、やめて。
諦めるって思ったのに、君にやさしくされるとまた好きになっちゃう。
ううん、今もまだ好き。
だけど、この想いは心の奥にしまわなくちゃ。
――― キ ミ ト ワ タ シ ハ ツ リ ア ワ ナ イ ―――
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
……私が机に突っ伏して何分が経ったんだろう。
……多分、10分くらい?
伊織に言われた言葉が悲しくて
明花ちゃんに言われたことが図星で
伊織との思い出を捨てたくて
この想いをどこかにぶつけたくて
恋愛対象にも入ってないのに、一生懸命恋してた自分がバカみたいって。
高校まで走ってきた私は、自分の教室に行き、席に着くなり、机に突っ伏していた。
『朱莉ってこんな性格だったっけ?』
と、みんながヒソヒソ話をしている声も聞こえた。
あぁ、もうなんでもいいや。
周りにどう思われてるかなんて……、今はどうでもいい。
「朱莉?」
あぁ、これは結衣の声だ、と思い顔を上げる。
声の主は予想通り結衣だった。
それと共にななめ前の席を見ると、伊織と明花ちゃんが来ていた。
……どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
なんだか、明花ちゃんと伊織が少しだけ憎い。
……こんな感情も大嫌いなのに。
「……ゆ、結衣……。」
「なんか悲しいことでもあった?
朱莉ってば、昔から悲しいことがあると突っ伏すタイプだからさ。」
結衣は私の事をよく分かってくれている。
明花ちゃんの事……、言っても良いのかな。
明花ちゃんの言葉を、私の心のなかから出したい。
誰かに相談して、もう一人で悩むのは嫌。
「なんか、一人で抱え込んでることがあったら、言った方がいいんじゃないかな?
そっちの方がスッキリすると思うし……、私の事も頼ってほしい。」
結衣の真剣な目は、私の目を捉えて離さなかった。
そうしたら、なんだか安心したような、悲しいような。
安心した気持ちの方が多かったのかもしれない。
ふっと涙がこぼれてきて、止まらなくなった。
いきなりすすり泣きする私に、クラスメイトの目は私に集まった。
伊織、明花ちゃんも同じだった。
「朱莉……。屋上行こっか。」
結衣に連れられてきた屋上。
真冬の朝の風がとても冷たい。
涙でぬれた頬に風が当たると、なんだか少しだけ痛かった。
明花ちゃんとの昨日の放課後の事、伊織と明花ちゃんとの今日の朝の事。
私は結衣に全てを話した。
結衣はうなずきながら、真剣に話を聞いてくれた。
私の涙は……。
ダムが崩れたかのようにとまらなかった。
「……伊織は全然悪くないのにっ……。
ただ本当の事を言っただけ……なのに。
明花ちゃんが言ったことだって、本当だよね……。
私と伊織はいとこであり、……それ以外のなんでもない。
……もう、伊織は諦めることにするよ。」
泣き疲れて、ふぅとため息をする。
そして、ずっと黙っていた結衣が口を開いた。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「朱莉は……それでいいのかな。」
しんとした屋上に、結衣の声が響き渡った。
「……っ」
本当は、自分でもわかっていたはずなんだ。
今の自分が、今の状態で伊織を諦められる訳ないって。
……でも、明花ちゃんに言われた言葉が悔しくて、
『もうこんな戦いやめる』『これ以上傷つきたくない』
って、やっぱり、私は逃げていただけだった。
「私は、朱莉は伊織の事諦められないと思う。
朱莉でもないのに何言ってんの、って思うかもしれないけど、
伊織と話している時の朱莉ってば、めっちゃ楽しそうだし。
私が机に突っ伏している朱莉を起こした時、一度だけ伊織の方を見たでしょ?
それで、悲しそうな顔をした。」
結衣は、私の心を見透かしているようだった。
なんでも私の事を分かってくれていて、本当に大好きな大好きな親友だ。
「それは、日向さんと伊織が楽しそうに話していたからじゃなくて?」
結衣の言葉を聞いていると、涙が出てきた。
それは、悔し涙でも、悲しい涙でもない。
自分の気持ちに正直になれた、って。
嬉し涙であって、暖かい涙であった。
ギィィィィィ――……
屋上のドアの鈍い開く音がして、パッと後ろを振り返る。
「広瀬、佐伯、授業を始めたいんだが。」
そこにヒョイッと顔を出していたのは、国語科の平林先生だった。
『すっ、すいません!』
二人で声が揃い、顔を見合わせる。
そして、ニコッと笑った。
平林先生と私と結衣の三人で教室に戻り、廊下を歩く。
ひとつだけザワザワとした私達の教室。
……だけど、私が入った途端に変わる空気は、もう分かっていた。
ガラガラァ――……
何も知らない平林先生は、大きく音を立てて教室のドアを開いた。
歩きまわっていた生徒は、急いで自分の席に戻り、後ろを向いていた生徒は、急いで前を向いた。
そう、全部の視線が私達に向けられたのだ。
……どうしても、……足が動かなかった。
ただでさえ人前に立つのは苦手なのに。
そんな、みんなの冷たい視線が……。
「ん、どうした。広瀬、佐伯、早く席に着きなさい。」
平林先生にうながされ、結衣は歩きだそうとした。
が、その直前、みんなに見えないように私の手をギュッと握ってくれた。
それは、『大丈夫だよ』と私に呼び掛けてくれているようだった。
スタスタと前を歩く結衣を見て、私も歩きだした。
誰も見ないように、みんなの視線が当たらないように、下を向きながら。
でも、やっぱり見てしまった、明花ちゃんの隣に座る伊織を。
すると、私の視線に気づいたのか、伊織もこっちを見てきた。
それは、ほんの数秒で、0.00……って続きそうなほど、私にははかない時間だったと思う。
大切な時間だったと思う。
だけど、反らしてしまった。
伊織の真っ直ぐな瞳を見たら、プイッと……。
自分から見たくせに、自分からそらして、私何やってんだ。
好きなはずなのに……。
答えが出たはずなのに
その答えは私にとってどうしようもない現実となり、悲しい想いとなり。
真冬の寒空の曖昧な水色。
それは、まるで私の心のようでした――……
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
翌日。
みんな、私にふつうに話しかけてくれるようになった。
だが、伊織と明花ちゃんはあまり話しかけてくれなくなった。
出来ればみんなと仲良くしたいけど、明花ちゃんとはあまり関わりたくない……。
もうあんな悲しみや恐怖は、味わいたくないから。
鐘が明るく「キーンコーンカーンコーン」と鳴り、昼休みの開始を告げた。
私は借りていた本を返そうと、図書室に行った。
「本条先生、こんにちは」
本条(ホンジョウ)先生、というのは、図書室を管理している先生。
年は30歳になったばかりらしい。
カールしたロングの髪が、とても美しい。
「こんにちは、朱莉ちゃん。なんだか久しぶりじゃない?」
「あ、はい。ちょっと色々忙しくって。」
ずっと図書室に居ても飽きないなぁ。
私は本が大好きだし、本条先生も大好きだ。
「……あ! 三年生の図書カード、まるまる全部置いてきちゃった!
朱莉ちゃん、ちょっと取ってくるね。」
そう言って、本条先生はイソイソと図書室を出ていった。
本当、本条先生ってばそそっかしいというか……。
「朱莉……?」
ハッと後ろを振り返ると、そこに居たのは伊織だった。
……1日だけ聞いていなかっただけなのに、すごく懐かしい感じがする。
「……伊織……。」
「朱莉さ、最近俺の事避けてないか?
前みたいに話しかけてくれなくなったし、目があったら反らすし、
何よりも昨日の朝の事。用事があったとはいえ、なんかよそよそしかった。」
伊織は私の目をしっかりと見据え、静かに言った。
避けてる訳じゃないのに。
……避けてるのはそっちの方かと思ってたんだけどなぁ。
「べ、別に……、避けてないよ。
でも、それならそっちの方だって……!
目をそらしたのは私だけど……さ。
明花ちゃんとばっかり話してて、私には全然話しかけてくれなくなったじゃん!
そういうさ……、曖昧に優しくされると、こっちだって辛いの!」
言葉を放つたび、力が加わって、声が大きくなってくる。
本当はこんな事言いたくないのに。
まるで、明花ちゃんに嫉妬してるみたい。
「……それは、日向が転校生だし、あんまり学校にも慣れてないから!
それに、日向、俺にたくさん話しかけてくれるし。
なっ、なんでお前が辛いんだよ!?
俺がお前にやさしくするのは、迷惑だっていうのかよ?」
伊織の声も、だんだんと大きくなってくる。
違う、違うんだ……。
そういう訳じゃないんだよ……。
私は、私は、君が……。
「私は伊織好きだから!!」
二人の言い争いが一度静まり、しーんとした図書室の中。
私の大告白が周りの空気を包んだ。
「……ちょ、え……。
『好き』って、あの『好き』……?」
鈍感な伊織にも、さすがに分かったようだった。
どんどん顔が熱くなってくる。
……私、今……『告白』ってやつをしちゃったんですか……?
後悔先に立たず。
今の私には、この言葉がお似合いのようだ。
顔が真っ赤の私、慌てる伊織。
そんな状況に耐えられず、私は図書室から走って逃げだした。
あぁ、どうして。
言い争いから告白につながるなんて。
私のバカだ……。
サクラチル。
私の桜は、春を目前に散りそうな予感です……。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「ちょっと、待って!」
後ろから聞こえる、伊織の真剣な声に、思わずハッと足が止まってしまった。
走り出したいのに、足が動かない。
今すぐここから逃げ出したいのに、……足が動かない。
もしかしたら、って期待してしまう自分が嫌い。
両想い、なーんて、私みたいな人はなっちゃいけないんだ。
……あの頃の失敗が目に浮かぶ。
「……朱莉、あの――」
「迷惑だったよね!!」
伊織の言葉をさえぎった私の声は、静かに、そして珍しく人の居ない廊下に、恐ろしく響いた。
「私みたいな、恋愛対象に入ってない女子がいきなり告白なんてしてきてさ……。
それは分かってる、本当……、ごめんなさい……。
……ひとつ、聞きたいことがあるの。
……伊織さ、今、大雅の事を思い出してたり……する?」
大雅。
それは、私と伊織と、もう一人の女の子のお話。
……私が人見知りになったのも、人とかかわるのが苦手になったのも、“あの事”が原因なのかもしれない。
「朱莉――……、大雅の話はもうやめようって……。
お前が悲しいことを思い出すだけだし、今回の事には関係ないんじゃないか……?」
伊織が焦ったように私に説明してくれるけど、なんだか納得がいかない。
「どうして大雅の話をしてはいけないの?
別に私……、平気だよ? 全然大丈夫だよ……?」
泣きたくないのに、涙が出てくる。
あと少しで溢れそう、というくらいに。
「好きだから!!
好きな奴に、悲しい思いさせたくないから!
大雅の事だって……、絶対悲しいはずだろ。
別に強がんなくていいから……。」
うつむいていた顔を、伊織の方へ向ける。
伊織の顔は真剣で、目には力が入っていた。
驚いた、とても驚いた……。
嘘だ、だって、伊織が……。
窓から入ってきたのは、冬なのに暖かい風。
私と伊織の間を通り抜け、まるで幸せを落としてくれたかのようでした。
それとともに……、悲しみも落としていったようでした。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
はい!!
これで、この物語の第一章は終わりです*
一段落ついたところで、「大雅」君との過去について書きますね!
―今君に想いを伝えてしまえば―
番外編 ・ 夏の声
こないだの伊織との会話で思い出したこと。
ううん、ずっと心の中に残っていたの、君の事、君の声……、君の想いが。
心の奥に閉まったはずなのに、冬だって言うのに、なんとなく君が出てきた。
そう、あれは中1の夏の事――……。
ミーンミーンといつものように蝉が鳴き、これ以上ない、というくらいに夏を知らせる。
そして、夏の熱風に風鈴がチリンチリン、と鳴るのだ。
夏と言えば、なんだか騒がしいけど、その音を聞いてぼうっとしていると、
まるで自分がその音に溶け込んでいるようで、なんだか安心する。
「朱莉ーっ!」「朱莉ーっ!」「朱莉ちゃーんっ!」
あぁ、本当に騒がしい……。
周りとは違う音の方向へ顔を向けると、幼馴染の3人が、小学生のように虫かごや網を持っていた。
いや、一人は小学生なのだが。
朝倉 大雅(アサクラ タイガ)。
バスケ少年で、とても元気。
落ち込んでいるところは、あまり見たことがない。
私と同い年で、当時13歳、中1。
朝倉 椎奈(アサクラ シイナ)。
大雅の妹。小5。
こちらも大雅に似ていて、元気ったら元気。
ちなみに、顔も似ている。
クリクリの目に、かわいらしいツインテール。
広瀬 伊織(ヒロセ イオリ)。
大雅と私と同い年の13歳、中1。
私のいとこであり、未来の彼氏になる存在。
サッカー少年で、おしゃべり大好きな奴。
「な……、なにやってんの?
虫でもとりに行くの?」
驚いて私がそう聞くと、大雅は自慢げに言った。
「ピンポーン! 正解です!
今から、あっちの山にカブトムシとりに行くんだけどさ
朱莉も一緒に行かない?」
虫は基本嫌いだったが、あっけらかんとした大雅の笑顔に、なんだか断れなかった。
「朱莉ちゃん、椎奈ね、虫大嫌いなの。
だから、クモとか飛んできたら朱莉ちゃんに守ってもらうねっ?」
お、お前もかっ!!
色んなところにツッコみたかったが、天然な椎奈にはいつもの事ということで、流しておいた。
4人が行った山は、父親と母親に「あまり行ってはいけない」と言っていた、話によると危ない山だった。
木がびっしりと生えていて、なんだか全体的に怖い。
「ね、ねぇ……。ここって危ない山なんじゃないの?」
怖くて私がそう聞くと、大雅と伊織は口をそろえて「大丈夫大丈夫」と言った。
みんなと一緒なんだから大丈夫か、そう思い、足を進めた。
「うぉー!」
「大雅、カブトムシだぜ!」
「お、でかくね、このカブトムシ!」
本当にこの2人ってば子供だ。
幼馴染だから昔から知っているけれど、この2人は一緒に居るとうるさくて仕方ない。
だけど、面白くてしょうがない、というのもある。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
そして、そのあとに4人が着いたのは、木造で小さな小屋だった。
「……外見はボロボロなのに、中は結構キレイじゃん。」
小屋の中を見渡して、伊織が言う。
本当に、この小屋の見た目は伊織の言う通りなのだ。
屋根は枯れ草がポンポンポン、と置かれている感じで、嵐が来たらひとたまりもない、という感じ。
それに、柱に使われている木なども、腐っているようだった。
だけど中はそれほどでもなく、ちゃんと木で造られた椅子や机もあった。
「なんか……、歩きすぎて足痛くなっちゃった。」
椅子に座り、そうつぶやく。
山は途中から結構急な坂になり、この小屋までも距離があった。
「じゃあ、朱莉としぃはここで休んでるか?」
「うん、そうする。」
伊織と大雅が、虫網と虫カゴを装備させている。
また出かけるつもりなのだろう。
ちなみに、「しぃ」というのは椎奈のこと。
「え、椎奈も行く! 虫は……嫌いだけどぉ……、この小屋怖いもん!」
二人が小屋から出ようとすると、椎奈はその後をついて行った。
「んー……、じゃあ、朱莉。ここで待ってて。」
シーン……とした小屋の中。
一人で何もする事がなく、疲れていたので眠ってしまった。
「朱莉ちゃんっ、朱莉ちゃん!」
……椎奈の声に目を覚ました。
目の前には、泣きながら私を揺さぶる椎奈。
「……んっ!? どうしたの?」
椎奈の必死な声に、自然と私の声も必死になってしまう。
「大雅兄ちゃんが大変なの! 居なくなっちゃったの!」
椎奈のその声を聞いた途端、私は椎奈の手をとって走り出していた。
さっきとは少し景色が違い、空がオレンジ色に染まっていた。
赤く光った川を飛び越え、私達の道をふさぐ木々をすり抜け、
伊織を大雅の居る場所へと、一心不乱に走った。
「あ、朱莉! 椎奈! 大雅が……大雅が居なくなったんだ!」
額に汗をびっしりとかいた伊織。
……居なくなったって、どういうこと?
「俺達、二手に分かれたんだ。俺としぃが一つ、大雅で一つ……って。
それで、大雅と合流しようと思って探してるんだけど、居ないんだよ!
……あと、これ……。川の近くで見つけたんだ。」
下を向きながら話す伊織。
そして、手には大雅の虫カゴがあった。
「居なくなった……。まだどこかに居るんじゃないの?
……そんなに怖がらなくたって……。」
そんなに怖がる伊織と椎奈が不思議でたまらなかった。
どうしてそんなに焦るんだろう。
「もう一通り全部回ったんだよ! それで居なかったんだ……。
あと、虫カゴが川の近くに落ちてたんだぜ? もしかしたら溺れてるかも……。」
伊織の真剣な顔。
ずっとうつむいて泣いている椎奈。
……なんて言い返せばいいか分からなかった。
「椎奈ね……、見たの。大雅お兄ちゃんの事。
さっき、川の向こうにある手紙……? みたいなものをとろうとしてた。
そしたら……、大雅お兄ちゃん……、川に落ちちゃって……。
それから椎奈……。怖くなって逃げてきちゃったの。大雅お兄ちゃんが溺れてるの見たら、怖くなっちゃったの。
それで、朱莉ちゃんを呼ぼうと思って……。」
うつむいて泣いていた椎奈が、口を開けた。
そして、その口から出たのは、なんとも残酷な現実だった。
話しによると、大雅を探していても見つからなくて、伊織が椎奈に私を呼ぶように指示したらしい。
その途中、椎奈は大雅の事を見た。
が、怖くなり逃げ出して、私を呼んだ……ということだ。
「そ、そしたら今すぐ探さなきゃダメじゃない!」
そう思ったら、もう足は進んでいた。
川に沿って、私は走り出していたんだ。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
見つからない。
こんなにも大声で大雅の名前を呼び、走り回っているのに。
そんな状況、また、どんどん暗くなっていく景色が、私の不安をつのらせた。
「朱莉っ!」
そんな時、私の前には伊織の家族、椎奈の家族、そして、私の家族がそろっていた。
「……え、どうして……。」
「朱莉ちゃん……。大雅を探してくれてるみたいなんだけど、もう悪いわ。
こんな遅くなってしまって……。後は警察と私達で探すから……ね?
もう大丈夫よ、探してくれてありがとう。」
泣いていたのだろうか、大雅のお母さんの目が赤くなっていた。
本当は、私も一緒に探したかった。
だけど、大雅のお母さんが涙目になりながらああ言ったのだから、反抗してはいけない気がした。
ここは、「はい」と黙っておいた方がいいんだ。
翌日、大雅は見つかったそうだ。
だけど……。
頭を石に強く打ちつけていて、まだ目が覚めないらしい。
家族で大雅が居る病院に行ったが、やっぱり寝たままで、目が覚めることはなかった。
病院には、大雅の両親、椎奈、伊織の家族もいた。
お葬式でもないのに、しんみりしちゃって……、私も何も言えなかった。
「朱莉、ちょっと来てくれる?」
そんな時、伊織に呼び出され、私と伊織は病院の外に出た。
「……どうしたの?」
「これ。」
伊織が手に持っていたのは、一通の薄汚れた手紙。
土が少しついていて、真っ白な封筒は茶色くなっていた。
こんな時に手紙?と思ったが、何も言わずに受け取った。
封筒の裏を見てみると、そこにはたくましい字で「朱莉へ」。そう書かれていた。
字を見ただけでわかる、……この字は大雅の字だった。
「え……。」
「良いから、読んでみて。」
そう伊織にうながされ、手紙を封筒から静かに出した。
<<朱莉へ
伝えたいことがあって、この手紙を書きました。
と言っても、そんなに量がある訳じゃないんだけどね。
ずっと、朱莉が好きでした。 いや、今も好きです。
多分、朱莉は俺の事何も思ってないと思うけど。
でも、どうしても伝えたかった。
俺、夏休みが終わったら引っ越すらしい。
だから、その前に伝えたかった。
……それだけ。読んでくれてありがとう。
大雅>>
少し汚い、大雅の字。
だけどどこか暖かくて、安心する大雅の字。
その大雅の字で、「朱莉が好き」と書かれているなんて、そう想われていたなんて、
全然予想もしなかった。
「これ……どうして?」
「しぃが言ってたろ、大雅が川の向こうの手紙みたいなのを取ろうとしてた、って。
……それだよ、大雅が取ろうとしたのは。」
無表情でそう言う伊織がなんだか怖かった。
こんな伊織……見たことない。
「俺、ずっとその手紙の事が気になってて。
……ていうか、その手紙の存在、知ってたんだ、俺。
大雅が昨日の朝、俺に『虫をとりに行かないか』って電話してきて。
それと一緒に、『俺、今日朱莉に手紙で告る』って言ってた。」
嘘……。
伊織は……知ってたんだ……。
だけど、どうして? どうしてそんな決まりの悪そうな顔をするの?
手紙を握りしめ、ずっと黙っている私を気にせず、伊織は話を続けた。
「実は椎奈も知ってたんだよ。
大雅が朱莉の事好きなの。
俺達の話を聞いてたらしくて、それで。」
氷のように冷たい沈黙が続いた。
「じゃ……じゃあ、伊織と椎奈は……私を恨んでるね。
だって、この手紙を大雅は私に渡したくて、取ろうとして……あんな事になったんだもん。
私が大雅をあんな姿にしたも同然だ――……。」
思わず涙が滑り落ちた。
私は……気づいてはいけない真実を気づいてしまったようだ。
「そんなっ! 別に恨んでないから!
椎奈だって、そんな……朱莉の事恨んでる訳ないじゃん……。
あれは事故だから、自分を責めるなよ。」
力ない声で伊織が言った。
だけど、私には自分を責める他、何もできなかった。
気づいてはいけない事を気づいてしまった以上、なすすべが無いのだから。
「ごめん――……。
今の私には、それしかできないみたい。
手紙、渡してくれてありがとね。
……じゃあっ……。」
夏なのに、あのときはなんだか肌寒かった。
……それが私の気持ちを表しているようで、はがゆい。
伊織を置いて、私は病院の中へと走り出していた。
大雅からの手紙通り、椎奈達は夏の終わりと同時に引っ越していった。
あれから、大雅の目をつぶった顔も、椎奈の顔も、まともに見れていない。
だって、きっと椎奈は私を怨んでいる。
大好きな兄をあんな姿にしたのは……私なんだもの。
伊織とは、普通に喋れるようになってきた。
あの伊織の優しさが、だんだんと私の心の氷を溶かしていくようで、自然と笑顔がこぼれてしまう。
――そして、今に居至るという訳だ。
+*゚。*。゚*+―+*゚。*。゚*+―+*゚。*。゚*+―+*゚。*―+*゚。*。゚*+―+
ああああああ((
結局gdgdになってしもうた(´・ω・`)
とりあえず、「番外編・夏の声」はこれで終了です。
え?「こんなにgdgdなら最初から書くな」って?
……すいません;;
本当にすいません;;
でも、「夏の声」が無きゃ、この先、話が進んでも訳わかんなくなっちゃうんですよ。
だから書いたのです(●`・ω・)ゞ (最初から訳分かんないけどね*)
なので、次からは現在の話に戻ります!!
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_XaU
これは夢なんだろうか……。
伊織と両想いだなんて、絶対にかなわないと思っていた。
そんな事を、ホルンを吹きながら考える。
「朱莉ちゃーん? 気の抜けた音がするよっ?」
隣でホルンを吹く松宮 千穂(マツミヤ チホ)先輩に注意されてしまった。
「……あっ、すいませんっ。」
*
「では、これで終礼を終わります。気を付け、礼!」
前に立ち、みんなを仕切って終礼をする、倉持 蘭(クラモチ ラン)先輩。
蘭先輩は、三年生が引退した今、この吹奏楽部の部長さん。
ハキハキと喋っていて、……私とは大違い。
すごく羨ましい。
今日の昼休みから、ずっとぼーっとしている私の一日はあっという間に終わり、
帰ろうとした時。
「朱莉ちゃん、一緒に帰らない?」
私の顔を下からのぞきこみ、笑顔で蘭先輩が言った。
「あ、蘭先輩! ……蘭先輩が良いのなら……私は……。」
あこがれの蘭先輩と話せるだなんて。
自分でもわかる、……私は今心が舞い上がっている!
「朱莉ちゃんちって、商店街の辺りだっけ? 途中で私は他の道を通るけど、
途中まで一緒に帰らせて〜。」
私の隣で、楽しそうに歩く蘭先輩。
栗毛色のボブに、大きな優しい目。
本当にキレイだ……。
「朱莉ちゃんと話すのって、久しぶりだね。
……まぁ、パートが違うのもあるし、私は木管で、朱莉ちゃんは金管なのもあるからね。」
蘭先輩は、バスクラリネットという楽器を吹いている。
仮入部の時、そういえば優しくバスクラリネットの事を蘭先輩は教えてくれた。
「良いですね、蘭先輩って。
なんだか……こう……、人生を満喫している感じがします。
幸せオーラいっぱいというか……。本当に羨ましいです!」
私のイメージの中の蘭先輩は、幸せ、という感じなのだ。
とにかくそれを伝えたくて、頭の中から言葉を探した。
「や、やだ! 私、そんなに幸せそうに見えるかな?
……そんなんじゃないんだよ? 本当の私は。
私達の学年、2つにグループがわかれててさ。
……杏菜ちゃんが、どうやら私の部長としての仕事に不満を持ってるんだって。」
最初は笑顔だった蘭先輩の表情は、だんだん暗くなってきた。
……表情を暗くさせちゃったのって、私があんな話したからじゃん!
ちなみに、蘭先輩の言う「杏菜ちゃん」というのは、「藤森 杏菜(フジモリ アンナ)」先輩の事。
トランペットを吹いている。
部長さんを支える副部長を務めているんだけど……、まさか仲が悪いだなんて。
「え、そうだったんですか……。」
「あ、ごめんね。1年生に話すべき話題じゃなかったね。」
そう言って、蘭先輩はまた笑った。
だけど、今回の笑顔は、無理をした作り笑顔な気がした。
「あ……で、本題ね。
私、次の部長は朱莉ちゃんがいいと思うの。」
手をパチン、と叩いて、キラキラした目で蘭先輩が言う。
……ブ……チョウ?
頭の中がフリーズしている。
「……うぉぇっ!?
そんな、部長なんて話が早くないですか!?
蘭先輩が部長になったばかりじゃないですか! 1年先の話ですよっ。
というか、私には部長なんて大事な仕事、無理です!」
蘭先輩の唐突な案に、慌ててしまう。
「そうかな? ほら、1年って早いじゃない?
朱莉ちゃんなら出来ると思うな、私。
合奏をする時、キーボードやメトロノームを用意してくれてたり、
人が見ていない所で頑張ってくれてるところ、知ってるよ。」
そんなところまで蘭先輩は見てくれていたんだ。
嬉しいような、なんだか恥ずかしいような気持ちになった。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
整理するための、登場人物紹介です!!
*広瀬 朱莉(ヒロセ アカリ)
楓山高校1年。吹奏楽部でホルンを吹いている。
極度の人見知りで弱気。
言いたいことが言えない自分にムシャクシャしながらも、
自分を変えられない自分に失望感を抱いている。
伊織とはいとこ同士である。
一番の友達は佐伯結衣。
好きな人は広瀬伊織。
イメージカラーは淡いオレンジ。
*広瀬 伊織(ヒロセ イオリ)
楓山高校1年。サッカー部。
陽気で明るく、人気者。
少しアマノジャクな所がある自分が嫌い。
素直になれず、時々ムキになる事がある。
朱莉とはいとこ同士。
イメージカラーは赤。
*佐伯 結衣(サエキ ユイ)
楓山高校1年。女子バスケットボール部。
サバサバしていて、姐御肌タイプ。
ゆえに、男子にも女子にも人気である。
曲がったことが大嫌い。
思ったことをハッキリと言ってしまう自分をなおしたいと思っている。
また、自分とは正反対の朱莉を尊敬している。
一番の友達は広瀬朱莉。
イメージカラーは元気なオレンジ。
*山咲 すず(ヤマサキ スズ)
楓山高校1年。女子バスケットボール部。
クラスの中心的存在であり、明るい。
だが、表と裏が激しいため、女子の一部には嫌われている。
噂話などをキャッチするのが早く、また自分自身にかかわる噂も多い。(恋の噂などなど)
ちゃっかり者で、嫉妬心が強い。
なんでも完璧な朱莉と、部活で良い成績ばかりを収めている結衣を、本当はあまり良く思っていない。
イメージカラーは紫。
[>NEW<]
*日向 明花(ヒナタ メイカ)
楓山高校に転校してきた女の子、1年。
吹奏楽部に入部し、フルートを吹いている。
伊織に想いを寄せるが、伊織は全然振り向いてくれるようすが無い。
朱莉をライバル視しており、あまり好いていない。
イメージカラーはピンク。
*桧山 恵梨奈(ヒヤマ エリナ)
朱莉に「桧山ちゃん」と呼ばれており、まぁまぁ仲が良い。
霊感があるらしく、とても勘が鋭い。
黒髪の綺麗なロングヘアーで、鼻筋も通っており、結構美形。
自然体な朱莉には心を開くが、他の人に自分を探られることや、深く関わる事を嫌う。
それは、彼女の悲しい過去に秘密がある。 (今度、番外編を書く予定です)
イメージカラーは淡い青。
*倉持 蘭(クラモチ ラン)
楓山高校2年。吹奏楽部の部長でバスクラリネットを吹いている。
本当の自分と周りからのイメージのギャップに、悩みを抱いている。
責任感が強く、しっかり者。
藤森杏菜とは、仲良くしたいのだが上手くいかない。
イメージカラーは爽やかな水色に近い緑。
*広瀬 夏帆(ヒロセ カホ)
碧山中学校2年。朱莉の妹。
美術部に所属しており、高校に行っても美術部に入るらしい。
高校は楓山高校が良い、と言う程姉の朱莉が好き。
料理が得意で、姉には「調理部はどう?」と勧められている。
イメージカラーは黄色。
*広瀬 湊(ヒロセ ミナト)
碧山中学校1年。朱莉の弟。
野球部に所属しており、高校に行ったら続けるかは迷い中。
中学生になり、姉達と少し距離を置くことに。
イメージカラーは水色。
*松宮 千穂(マツミヤ チホ)
楓山高校2年。吹奏楽部に所属しており、ホルンを吹いている。
朱莉のパートの先輩。
自他共に認めるおっちょこっちょいだが、ホルンの腕は抜群。
優しい目で朱莉を見守っている。
イメージカラーはレモン色。
*藤森 杏菜(フジモリ アンナ)
楓山高校2年。吹奏楽部の副部長で、トランペットを吹いている。
部長の倉持蘭を支える立場なのだが、蘭とは1年の頃から上手くいっていない。
自分のやり方と倉持蘭のやり方が違うのだが、それを受け入れられず、
倉持蘭をあまり好いていない。
イメージカラーは濃いピンク。
[>NEW<]これから出る予定の方々
*前原 未来(マエハラ ミク)
楓山高校2年。女子バスケットボール部の部長。
結衣のあこがれの先輩。
イメージカラーは緑。
(登場したら色々付け足す予定)
*朝倉 大雅(アサクラ タイガ)
これから出す予定というか、一度番外編に出てきた。
とりあえず、この位置に←
椎奈の兄。
中学1年生の時に起きた事故により、植物状態に。
朱莉の事が好きだった。
イメージカラーは濃い青。
*朝倉 椎奈(アサクラ シイナ)
こちらも、番外編に出ました。
大雅の妹。
椎奈が小学5年生の時に起きた、兄の大雅の事故により、
悲しくても笑顔で隠すようになった。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「そうやって言ってくれるの、すごく嬉しいです。
でも……、やっぱり私には無理だなって……。」
確かに、蘭先輩がそう言ってくれるのは嬉しい。
入学当時から、私は蘭先輩にあこがれていたのだから。
「そうだよね、まだ早いかっ。
ごめんね、突然こんなこと言って。」
そんな話をしていると、もう別れる所まで来た。
「さよなら〜」と手を振り、少しだけ、蘭先輩の後ろ姿を見ていた。
賑やかな商店街を歩き、家へと向かう。
町はキラキラとお正月のイルミネーションが光っていて、まるで魔法をかけたようだった。
……すると、頭の中に伊織の顔が浮かぶ。
いつか伊織とこんなイルミネーションの中を歩いてみたい、そんな気持ちだった。
家に着き、かじかんだ手で鍵をさし、ドアを開ける。
……あれ?
真っ先に目に入ったのは、いつもより以上に多い靴。
それに、なんだかリビングが騒がしい。
誰か来ているようだ。
「あ、朱莉、おかえりなさい」
テーブルに座って夕ご飯を食べている母。
その母の向かいには……見たことある顔。
だけど……あれ?
そんなはずはないのに。
私の頭の中が、メリーゴーランドのようにグルグルとしている時。
ピンポーンとインターホンが鳴り、誰かが来たのを告げた。
母が快くインターホンに出て、玄関から入ってきたのは
伊織だった。
「これで全員そろったわね〜」
母が上機嫌で言う。
そして、母の向かいに座る人が、立ち上がり、こちらに向かって、一礼をした。
相変わらず私の頭はグルッグルで訳が分からないが、
伊織が一礼したのを見て、私もそれに続く。
「朱莉ちゃんと伊織君。覚えてるかな? 大雅の母です。
昔、よく、『クッキーおばちゃん』って言ってくれてたわよね。」
え、嘘!
大雅のお母さん……!?
にこやかに喋る女の人は、大雅の母だと言うのだ。
そして、『クッキーおばちゃん』というあだ名は、伊織がつけたものである。
今となっては、思い出にすぎないが、よく大雅と椎奈と伊織と私の4人で遊んだ時、
大雅のお母さんがクッキーと作ってくれたのだ。
そのクッキーが、ふんわりした優しい味で、とてもおいしくて!
『クッキーおばちゃん』というのだ。
おばちゃん、だなんて、今思えばとても失礼だったと思う。
だけど、そんな私達に、大雅のお母さんはいつも優しい笑顔で接してくれた記憶が、
今も鮮明に残っている。
「た、大雅のお母さんですか!?
どこかで見たような顔だとは思っていたんですけど……、
すみません、気づきませんでしたっ!」
こういう時は、正直に「そうだと思ってました」という演技をした方がいいと思うのだが、
私は本当にクッキーおばちゃんだとは気付かなかったわけだ。
「クッキーおばちゃん……、大雅のお母さんですか!
あの時は、色々迷惑をかけました。
……それで、今日はどうして?」
伊織がスラスラと喋る。
……なんとなく昔の伊織を思い出してみるけれど、
前はしたったらずの伊織だったのに。
「そう、今日来た理由がね……。
ここから真剣な話になるんだけど、
大雅が先日目を覚ましまして。
もう、動けるようになったのよ。」
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「えっ!?」
「え゙ぁっ!?」
私と伊織の声がそろった。
いつもは声がそろうと、お互いに顔を見合わせてニヤッと笑ってしまうのだが、
今はそんな気にはなれなかった。
……ちなみに、私は後者の「え゙ぁっ!?」の方だ。
「そ、そそ、それって、もう大雅は平気なんですか!?」
ビックリしすぎて、言葉がうまくでてこない。
……大雅には、聞きたい事がたくさんあるんだ。
ふと、隣の伊織を見てみると、なんだか硬い表情をしていた。
そりゃあ、そうか。
……大雅が目を覚ましたんだもの。
「あ、あとね、私達、もう転勤族じゃなくなったのよ。
それで、そろそろこっちに引っ越してくるから、またよろしくね。」
上機嫌で大雅のお母さんが言う。
そう、大雅の家は転勤族だったのだ。
中学1年生の時に、この町から引っ越し、引っ越した先でも、数年後にまた引っ越したらしい。
そして、またこの町に住む、という事だった。
「それで、今、椎奈と大雅は?」
「あぁ、今日は私だけ来たのよ。
全員そろった、って言ったけど、本当は揃ってないわね。」
そういうことか……。
それから、大雅のお母さんはまた昔のようにクッキーを置いて行ってくれた。
大雅のお母さんが帰った後、少し、伊織と近くの公園まで歩くことにした。
もう外は真っ暗で、星が一つ、二つ、瞬いていた。
「なぁ、どう思う? 大雅が目覚めたって。」
突然、伊織がそう聞いてきた。
心臓がドクッと大きくうなり、なんだか顔もこわばる感じがした。
「……んー。なんだか不思議な感じだね。
でも、嬉しいよ。大雅に聞きたい事、たくさんあるし。
伊織は? 伊織はどうなの?」
「俺は……。わっかんね。
嬉しいような気もするんだけど……、
……なんでもないっ!」
分からない、分からないよ。
どう思う?だなんて。
嬉しい気はするんだよ? 久しぶりに仲が良い友達と会う感じがして。
だけど……、どうやって接すればいいんだろう。
上を見上げて、空を見る。
星空は、さっきより星が増えていて。
電灯よりも、街灯よりも、私達を照らしてくれている気がした。
だけど……。
私のちょうど上には、4つの星が輝いていて。
青い星、緑の星、黄色の星、……赤の星。
赤の星以外は、すごく明るく瞬いている。
でも、赤い星はどうして?
なんだか、不気味に光っている感じがしたんだ。
それは、まるで私のようで。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
それからすぐにクッキーおばちゃんはこちらに越してきた。
そう、大雅達と顔を会わす日がやってきたのだ。
「き……緊張するね……。」
高鳴る心臓をギュッとおさえつけ、
平然を装って伊織にそう言った。
「ん……まぁ……。」
伊織だって平然を装っているようだが、
さっきから手に汗をかいてるのを隠しているのを、
私は知っている。
ちなみに、今私達が居るのは、私の家の前。
私の家に、大雅達がやってきて、「久しぶりパーティー」のようなものをするらしい。
今はその待っている時間。
「……深雪ちゃーん!」
真冬の淡い空の中。
寒さに耐えながら棒立ちをしている時、
クッキーおばちゃんのあのハツラツをした声が聞こえ、
顔を上げる。
すると、とても小さな……小さな小さな人影が、遠くに見えた。
4人組で、あの声。
間違いなく朝倉一家に違いなかった。
それにしても、40過ぎのおばさん同士で「ちゃん付け」って。
私の母は「深雪 ミユキ」という名前なので、深雪ちゃん。
クッキーおばちゃんは「広佳 ヒロカ」なので、広佳ちゃん。
そして、伊織の母は「雅 ミヤビ」なので、雅ちゃんだ。
「広佳ちゃーん! 遅いじゃないの〜!」
クッキーおばちゃんの叫びに応えるように、私の母も大声を出し始めた。
……一体、どっちが大人でどっちが子供ですか?
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「えっと……、椎奈ちゃんと……大雅……か。」
母達は下でミニお茶会をしている。
子供らは上に行ってろと言われ、今居るのは私の部屋。
私と伊織と夏帆と湊と……椎奈と大雅。
久しぶりに会った大雅は、鼻筋がすぅっと通っており、
だけど、大きな澄んだ目や、女の子のような可愛いあひる口は、昔と同じものだった。
椎奈ちゃんは、前のようなツインテールではないが、カールのかかったふんわりとしたロングの髪の毛で、
大雅と似た丸い目と可愛い口は今もしっかりと健在していた。
「えっと、椎奈でいいよ? 前みたいにさ。」
八重歯を見せて、そう椎奈が笑った。
あどけない笑顔も、昔と同じものだ。
「それで……さ。大雅は大丈夫? 目覚めた後も、
普通に正常だったの?」
椎奈から大雅へと体を向かせ、まっすぐ目を見る。
しっかりとその姿を焼き付けるように。
「あ、あぁ……。まぁ、大丈夫かな。
色々検査して……、大丈夫だったみたい。」
大雅の声は、昔とは違う、低くてスッキリした声だった。
……これだけは、昔の高い元気な声とは違う。
当たり前の事なのに、やっぱり会うのが久しぶりだからかな。
色々ドキドキしてしまう。
「あー……、そっか。良かったね、これで、昔みたいに皆で楽しくできるね。」
私と大雅は喋っているけど、あとのみんなはシーンとしたまま。
そんな時、
「お姉ちゃん、ごめん。私と湊、これから塾だからさ……。
ちょっとごめん、行ってくるね。」
そう言い、夏帆と湊は部屋から出た。
その時、私は夏帆にノートを借りていた事を思い出し、慌てて一階まで
階段を下っていった。
少し、少しだけ、4人でいるのが辛かったのもある。
だから、外の空気を一度吸いにも行きたかったのだ。
「あ、ちょっと待って。そういえば、夏帆にノート借りてたんだった。
ちょっと……さ。中学校の時の英語を、一部忘れてしまいまして……。
復習用に借りちゃってた、ごめん。」
夏帆と湊を追いかけて、ノートを渡す。
夏帆は一瞬、「えー? 無言で?」と嫌そうな顔をしたが、
その後すぐに笑顔になった。
「今度借りる時言ってよね。私が教えてあげるっ」
妹に教わるなんて……。
姉のプライドが、その妹の笑顔によって、少し傷つけられたような気もするが、
そう言ってくれる妹を持っているのは、私自身にとっても幸せなのかもしれない。
トン、トン、トン……と音をたてないように階段を上がる。
もしかしたら、伊織達が3人で盛り上がってるかもしれないし。
ドアノブに手をかけた時、聞こえた椎奈の声。
「ねぇ、お兄ちゃんって朱莉ちゃんの事、好きなんでしょう?」
開けたくない、聞きたくない、そう思ったが、もう遅かった。
私の手は、ドアノブを回し、ドアを開けようと力が入った後だった。
それも、大雅が答えたのと同時にね。
ガチャ――…… 「うん、まだ好き。」
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「あ、朱莉ちゃん。」
椎奈が最初にこちらに気づき、私の名前を呼んだ。
……なんていえばいいの?
「あのねー、朱莉ちゃん。
お兄ちゃんね、まだ朱莉ちゃんの事好きなんだって。」
「ちょ、椎奈ッ」
大雅と椎奈ちゃんのやり取りは、私はもちろん、伊織だって聞いていた。
……二人は気づいていない、氷のように張りつめた、冷たい空気が、
私と伊織の間に流れた。
「え、え、そんな……。
それって、本気? ネタ?
……ど、どちらにしろ、
私みたいな子は大雅に似合わないよ……うん。」
とっさに作り笑顔をし、場を明るくするように頑張った。
伊織と私の間の場、を。
「ごめん、俺――……。
ちょっと、外の空気吸ってくるわ。
寝不足でさ……。
スッキリしてくる。」
伊織はスッと立ち上がり、誰の返事も聞かずに部屋を出て行った。
私の頑張りは無駄だった。
なんだか伊織は怖くって、うつむいていて、
私の伊織への視線を拒絶するようなものだった。
しんとした三人。
あぁ、どうしてすぐにしんとしてしまうんだろう。
やっぱり、昔とは違うんだ。
「じゃあー、私も外の空気吸ってくるっ!
久しぶりに伊織くんと二人きりで話してこようかなっ。」
椎奈は明るい笑顔で、立ち上がった。
ふわっと髪が空気に舞い、良い香りがした。
完全に私達を二人きりにさせようとしている椎奈の行為は、
一層、伊織と私の距離を離れさせることになった。
「え、椎奈も行っちゃった……ね。」
「うん。」
大雅の「まだ好き。」と言う言葉が頭の中でグルグルと流れていく。
……まさか本気じゃないでしょう、ね……?
「さっきの、本気だから。
今も昔も、朱莉が好き。」
私の心を見透かしたように、大雅が言った。
恋愛経験の少ない私は、やっぱりこんな時どうすればいいのかが分からない。
しどろもどろに、あははっと苦笑いをした。
「って、本当の本当だからね?
だからって、無理に作り笑いしたり、苦笑いしたり、愛想笑いしたり……、
意識しなくていいから。
自然な朱莉が、好きなんだし、俺は。」
「なにそれ。私がいつも人の目を疑ってるみたいじゃん〜。」
大雅の言葉に、少し安心した。
……一部だけは。
本当に私の事を好きなのか、今も信じることができない。
いや、そんな訳ないのだ、信じてはいけないのだ。
私は伊織が好きなんだから。
大雅の空気を和ませる才能は今も一流で、
自然と笑顔が出てきた。
そんな頃、伊織と椎奈は……。
「いーおりくんっ」
外でぼーっと空を見ていた伊織に、椎奈が明るく呼びかけた。
「椎奈……って、なんでここに?」
「ちょっと、伊織君が気になってさ。」
意地悪そうに笑う椎奈に、伊織は不信感を覚えた。
「……今、朱莉ちゃんとお兄ちゃんを二人きりにさせたくて、
出てきたのが大半だけどね。」
伊織の方を向き、椎奈はまたニヤッと笑う。
椎奈は、やっぱり伊織と朱莉が付き合っているのは知らないようだ。
「……なッ、バカッ! 何やってるん……」
「伊織君って朱莉ちゃんの事好きなんだあー?
……昔、『俺は朱莉の事を絶対に好きにならない』って。
『大雅に悪いから』って。『俺は大雅の目が覚めた時、朱莉と大雅を付き合わす』って。
言ってたのに?」
椎奈の言った言葉は、昔伊織が椎奈に言った言葉だった。
それをフッと思い出したように、伊織がおもむろに口を開いた。
「それは……マジごめんッ……。」
そう言い、伊織は椎奈の冷たい視線を背に、
朱莉達がいる二階へと走って向かった。
千咲.*@sweet11★tyRhwaJSD2_Id2
「じゃあ、今日はこれで失礼するねー。」
クッキーおば……じゃなくて、ちゃんとした言い方をすると、
広佳さんで良いのだろうか。
今の年頃、小さいときのように、“クッキーおばちゃん”と呼ぶのはなんだか失礼だし、
かと言って、今さら“広佳さん”などとちゃんとした名前で呼ぶのか?
最近、どうでも良い事で色々と悩む気がする。
大雅達は、結局21時過ぎに帰っていった。
私達子供らより、なんだか親の方がワイワイしていて、
「うーん」という感じ。
それから、伊織達も帰っていった。
シーンとした家。
何分か前までは、ここでワイワイやっていたものだから、
いつも通りの家なのに、なんだか物足りない感じがする。
……大雅達が来る事に、あんなに緊張していた私だったが、
その必要はないようだった。
〜一か月後〜
楓山高校、1年2組。
先生は「転校生がやってくる」と言い、「それも男子」というのを付け足すと、
山咲さんを中心とした、女子達が一気に歓喜の声を上げ始めた。
私は……。
歓喜も何も、気になるも何も、誰が来るかなんてもう一発で分かるのだから
声のあげようがない。
「さあ、入ってきなさい。」
先生がそう言うと、教室の扉はガラガラーっと開き、
見覚えのある人物が入ってきた。
マンガでよくある、「キャー!」なんていう場面はさすがに無かったが、
少しザワザワとしている。
「あ、えーっと、朝倉大雅です。
中学時代の思い出はほとんどありません!」
思わず「え」と声をあげそうになった。
た、確かに、大雅は中1の夏に寝たきりになってしまって、
中学校に行ってないものだから、中学時代の思い出が無いのはわかるが……。
大雅の自己紹介に、ドッと教室に笑いが広がる。
「中1まではバスケやってたんですよ。
でも、もう2,3年やってないんですよ。
なんでー……どうしようかな。
サッカーとか興味あるんで、サッカー部に入ろうかなー、とか思ってます。
あ、ちなみに朱莉さんと、伊織の幼馴染です、よろしくお願いしますっ!」
軽く一礼をすると、ニカッとした笑顔で頭を上げた。
そんな大雅らしい自己紹介に、少しあきれた目で見ていると、
後ろからツンツン、と結衣がつついてきた。
「第一印象惚れたんですけどッ!」
「はッ、はぁ!?」
あまりにも結衣の言った事におどろきすぎて、思わず口に出してしまった。
瞬間に、先生を始め、すべての人がこちらを振り向き、
頭に?マークをちらつかせると、また大雅の居る教卓の方へ向きなおした。
「じゃあ、朝倉君は一番後ろの、右から二番目の席で良いかな。
お、ちょうど伊織と近い席で良かったじゃないか。」
休み時間になり、教室のほとんどの人間が大雅の机の方へ駆け寄った。
近くの伊織は、迷惑そうに窓の外を眺めていた。
「朱莉、おどろいた?」
結衣がちょっとハニカみながらそう言う。
お、おどろいたなんてもんじゃ……。
「だ、だって、惚れたって!?
一目ぼれ?」
「いやー……一目ぼれっていうか……。
なんか、良い人そうだな、と思って。
朱莉、幼馴染なんでしょ?
私、大雅君と話してみたいかも。」
結衣が自分からこんな事を言うのは初めてだったから、なんだか新鮮だった。
でも……、結衣が大雅を好きになってしまったら、どうなっちゃうの?
無意識に、大雅の告白が頭をよぎった。
ブンブン! とそれを振り払うように頭を横に振り、
「いいよ!」
私はそう答えていた。
〜季節外れの転校生〜
2. 交差する想いは
「ほっ、本当っ!?
いやー……私がもう一度恋をする日が来るなんてね。
……驚きだよ。」
ほんのりと頬をピンク色にし、
嬉しそうな、だけど、どこか切ない笑顔を浮かべる結衣。
……もう一度恋をする日が来るなんて?
どうしてそんな表情を浮かべているの?
「え? 結衣、恋愛に関してなにか前にあったの?」
思わず質問した。
真っ直ぐに結衣の目を見るが、
結衣は私に視線を合わせてくれない。
「え? ……朱莉は知らなかったっけ……。
えっと、あー、んと、何でもないよ。
ごめん、変な事言っちゃったね、気にしないで?」
絶対何か隠してる。
何でもないなんて嘘。
結衣の視線はさっきから動いているし、
なんだか結衣は怪しかった。
だけど、無理に聞くのは間違っている。
私はいくつかの疑問を胸にしまい、
「そっか。困った事があったらいつでも言ってね?」
そう、笑顔で言ったんだ。
〜季節外れの転校生〜
3. 後悔
「なーんで私、あんな事言っちゃったんだろう。」
私の目に見えているのは、真っ白い天井だけ。
家に帰ってからすぐ、持っているカバンをどこかに放り投げ、
ベットにダイブした。
今見えている天井のように、もう何もかも真っ白に消え去ってしまえばいいのに。
この想いも、この疑問も、このどうしようもないはがゆい気持ちも。
もう、全てがどうでも良くなってきた。
幸せなはずなのに……ね。
ベットから起き上がり、窓の外を見る。
なんだか雨の匂いがして、少し気になったから。
部屋の窓はサビついていて、スムーズに開かない。
このモヤモヤした気持ちを晴らすように、手にガッと力を込める。
ガッ……ガラガラア
力を込めると窓はすぐに開き、
見えた景色は、やっぱり雨だった。
なんだ、つまらない。
雨だと思ったけれど、やっぱり違う―――……なんて、
そんな少し面白いような、予想していなかったものを求めていたのに。
ふと、上を見上げると、……桜。
満開の桜。
今回の風の強い雨ですべて散ってしまいそうだけど、
今私が見えている桜は、満開の……なんてキレイなんだろう。
薄いピンク色の花に、元気に生い茂っている緑の小さな葉。
そんな桜を見ていると、なんだか気持ちが晴れた。
今、この瞬間、
この素晴らしい景色を見ているのは私だけ。
ひとりじめしているような気分でいた。
もう春か。
無性に、新しい道へと踏み出さなければいけない気がしたんだ。
文字色変えました(*¨*)
〜季節外れの転校生〜
4. 迷子.
翌日。
学校に行くと、結衣は休みだった。
熱が38度くらい出てしまったそうだ。
昨日の夜から結衣と大雅の事ばかり考えてしまい、
なんとなく頭がスッキリしない。
そんな感じで過ごしていると、時間はあっという間に過ぎ、お弁当の時間になった。
「朱莉ちゃん」
「あ、桧山ちゃん。どうしたの?」
そういえば、何となく桧山ちゃんと話すのは久しぶりだ。
「いや、どうって事は無いんだけどさ。
なんか、朱莉ちゃんが沈んでたから。
一緒に食べていい?」
桧山ちゃんが柔らかな笑みを浮かべる。
桧山ちゃんと話していると、落ち着くんだよなあ。
「あ、いいよいいよ。というか、私も桧山ちゃんとお弁当食べたい。
……でも、今日は屋上で食べなくて良いの?
私もさあ、出来る事なら、結衣と桧山ちゃんと三人で屋上で食べたいよっ?
けど、いくら春になったと言え、屋上はまだ寒いって!」
桧山ちゃんは普段、お弁当の時間は屋上で食べている。
屋上を、眺めているのが好きなんだって。
「んー……、なんか今日は良いかな、って思って。
そーれーよーりーもー……、なんか朱莉ちゃんが心配だったから。」
桧山ちゃんの目は、私の目をグッととらえた。
思わず後ずさりしてしまったけれど、桧山ちゃんってばやっぱり凄い。
勘が良い。
「え? そ、そうかなあ……。
まあ、色々と悩んでるのは事実だけどね。
でも大丈夫! とりあえず元気だからさ。
心配してくれてありがとう。」
私がそう言うと、桧山ちゃんはまた笑った。というか笑顔になった。
「桧山ちゃんってさあ? 自分の事を探られたり
聞かれたりするのってあんまり好きじゃないタイプだよね?」
「ん……、まあそうだね。
でも、朱莉ちゃんとか、仲が良い人に聞かれるのなら大丈夫だけど。
知らない人とかが私の事を知ったって、どうせ変に思うだけだよ。
霊感がある、あー、近寄りたくない。って、そう思うだけ。
そんな事言われるくらいなら、もう人となんて関わりたくないよ。」
すると、桧山ちゃんはゆっくりと自分の過去について話してくれた。