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机に頬杖をついて愛を語る

 ( 初心者のための小説投稿城 )
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冷雫☆SgffiaGa5so★1sTKPEkFqJ_Im7




一人の少女が道端で叫んだ。


「君のことがぁ、大好きだあああぁぁぁああああぁぁぁぁああぁぁっっっっ」






そして隣の少年はつぶやく。


「この変人、どうにかしてください」

2011/09/17 15:19 No.0
記事メモ2012/03/14 21:34 : 葉浅☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

はい、こんにちは。冷雫です。


読むの専門で書くのは三つ目ですが、二つとも放棄している冷雫です。

がんばりますww

自分の性格からしてコメディと恋愛と感動ものになると……思います。


2.19[時々名前が『葉浅』になってますが冷雫と同一人物です]

2.25[アクセス1000突破っ 皆様ありがとー。そしてサブ記事誰か来てーッ]


  とーじょーじんぶつ


 花橘 衣冷(hanatatibana irei) 森3


 瀬川 悠人(segawa haruto) 泉5〜泉1


 火野坂 葵(hinosaka aoi) 火3


 津田 洸希(tuda koki) 黒1      今から本編読む人は登場人物を覚える必要なしっ 読んでるうちにきっと覚えられるよ……。 


 辰巳 宙(tatumi sora)


 二ノ宮 彬(ninomiya akira)


 國上 晴樹(kunigami haruki)


 匡髪 翔太(kunigami syota) 


 紫咲 瞳(murasaki hitomi)


 化野 サクラ(adasino sakura)番長

…続きを読む(17行)

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冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



意識が戻った私が最初に気付いたのは、違和感だった。


「んん?」


口元を覆うガムテープ。
左肩、脇腹、首筋、左足のふくらはぎ。
それらを覆う包帯……?

怪我に気を遣ったように足は縛らず、どこから入手したのか足枷が両足に嵌っていた。


何だこれ……。



「こーんにーちはー」

「――!?」



足枷を外そうと頑張っている時に、耳元で囁かれた挨拶言葉。
低い男の声で、バッと振り返った私の目の前には年上の青年が居た。

背が悠人以上に高くて、優男っぽくて、でも少し腹黒そうな笑み。
整った顔立ちでその笑いは、嫌味に感じた。


でも、この人……?



「はい、御想像の通り、柚杏の兄で雛遊 駿(ひなあそび しゅん)といーます」



名字は違うみたいだけど、柚杏のお兄ちゃん。駿、さん……。
じゃあ、やっぱり危険な人?


「俺は別に柚杏と違って危害加えようとは思わねーよ? ただねー、傷がある程度治るまで俺ん家に泊まれと」


……。
危険な人、なんじゃないかな。

改めて駿さんの『俺ん家』を見渡してみると、伊月くんぐらいの部屋の広さ。
結構古い。家具は、無し。その代り段ボールが部屋の隅に山積みにされていた。


「んんん……?」



「? 一応この住民でアンタの知り合い居るから。会わせるつもりは無いけどね」



駿さんはアパート暮らしらしい。
でも私がしばらく居ることは大家さんしか知らないらしい。

んー、知り合いって誰だろう。



「ンてことで、まずは謝罪」

「……」


「妹が危害を加えてまことに済みませんでした」



意外なことに、駿さんはちゃんと土下座してくれた。



「何か、欲しいのある?」

「…………んん」


「……? あぁ、ハルト様っつー奴ね」


私は顔を上げて駿さんの顔を見た。
苦笑した顔を私から背け、手短な段ボールに手を伸ばした。

しばらくゴソゴソと探っていた駿さんは「あ」呟き、手に持っていたものを見せてくれた。




「ほい」



それは、柚杏が駿さんに宛てた手紙だった。



2012/02/11 20:46 No.208

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

 雛遊 駿にぃへ


久しぶりです、駿にぃ。元気ですか。
多分、住人の『養護の先生』とよろしくやってるんだと思いますが。
ワタシは元気です。好きな人もできました。
漢字もフルネームすらわかりませんが、『ハルト』と呼ばれていました。
そのハルト様はとっても格好良くて、天使のようでした。
いえ、ワタシの中では天使そのものです。

でもハルト様には彼女が居るのです。
名前を『花橘 衣冷』というのです。
ワタシはこの衣冷という女が許せません。呪い傷付け、『殺してください』と叫ぶまで痛めつけます。
これは現在進行形なのです。
残念ながら、彼女に意識はありません。
ですが打撲も擦り切り傷も、半端なく多いです(^^)
駿にぃから貰ったナイフで4ヵ所もの深い傷ができました。
きっとこの傷跡は一生ものでしょう。

これは全て、ハルト様に近づいた罰なのです。
でも駿にぃ?
こいつ弱ってきて、傷の対処も何もしてないからか、死にそうなんだよ。
殺したい、けど殺したら日本では『さつじんざい』っていうのに問われるんでしょ?
あっちではそんなの無かったから、ちょっと大変です。

駿にぃ、彼桜公園ってとこで待ってるから、この傷ある程度治して?
それからまた痛めつける。

ねぇ、良いでしょ?
だから、この手紙読んだらすぐに来て。


じゃないと、駿にぃのこと殺しちゃうよ?



愛と蔑みを込めて  柚杏・レイトンより



2012/02/12 14:42 No.209

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS


「……凄い、ですね」


手紙を読んでいる間に口を覆うガムテープを外した衣冷。
内容に圧倒されながらも、『養護の先生』という人物が気になった。

確か、歯塚高の飛来先生はアパート暮らしのはずで……?



「あ、ちなみにこの『先生』っていう人とは何の関係もないからね」



『よろしくやってる』の意味が分からない衣冷は首を傾げる。
まあ気にするな、ということか。



「駿さんは何で私を助けたんですか?」

「そりゃ死にたくないからさ。文末に書いてる奴」



『駿にぃも殺しちゃうよ?』これを駿は本気にしたのだろうか。
幼い子供を見る様な目で見つめる衣冷を、駿は笑って見据えた。


「柚杏の住んでた国は治安が悪くて、人なんて一晩で何十人も死んでたからな。人殺しなんて当たり前だったんだよ」


だから、人を殺すのも躊躇いが無い。
呟く駿の瞳は真剣で、衣冷は目を瞬かせた。


「駿さんは、柚杏が好きですか?」
「嫌いだよー?」



即答する駿を哀しそうに衣冷は視線を落とし、畳の目を見つめた。

所詮兄弟なんてこんなもの。




「あ、今日は何日ですか?」

「10月22日」

「……………………は」



確か、柚杏に襲われたのは10月6日だと記憶している。
……すると、2週間以上もたっていることになる。



「ああ、学校にもご両親にも悠人さんにも伝えてあるから」

「皆は、何て……?」


「ん? さっさと治して帰らせろって」


「はあ……」



何とアバウトな周りの人間なのだろうか。

衣冷は少し、いろいろなことに疑問をもった。



2012/02/12 15:24 No.210

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS


「22日かー」

「ん? 何かあった?」


「何か、…………あーっ!」



大声を出して思わず立ち上がった瞬間、じゃらりと音がして足枷から延びている鎖がなった。
しかし衣冷はそんなことに気を使う余裕もなく、血の気をなくしてうろうろ動き回り、鎖に躓いて転んだ。



「駿さんっ!!」

「おうっ」


「今すぐ学校に連れてってくださいっ」

「はあ!?」



涙目になりながらも衣冷は必死に駿に訴えた。



「別に、良いではあるけど。……その格好で行けねぇよ?」

「へ」



気付いた衣冷は改めて自分の服装を見た。

制服のスカートはそのままだ。血に濡れて乾き、カピカピになっている。
だが上は夏もののシャツではなかった。


ダボダボの黒いTシャツ……。

はっとして中を見る。
……晒し、というか。ただの包帯が胸に巻かれていた。



「いや、俺がやったんじゃなくて――っ!?」


衣冷の膝が座っている駿の顎にヒットした。
THE・膝蹴り。

胸、腹、左肩、左ふくらはぎ。改めて結構巻かれている。

し、下着が…………!!



「ちょっと、おい何すんだよ」

「ひ、人の胸見るって」

「だから俺じゃねぇっつってんだろっ!!」








衣冷が気付いていた時には、視界は反転していた。


「……は」

「人の話はちゃんと聞きなさい?」


痛む左肩を抑えられ、畳に押し付けられている。
……本来天井があるべき位置に、駿がいながらにして。

つまりは押し倒されていた。



「ご、ごめんなさい」

「……んー。許さない」


爽やかな笑顔で言われた。


2012/02/12 20:08 No.211

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「ちょ、ちょっと……っ」



微かに口角が上がった口元が、嫌味に見えるように笑いの形をとる。

そんな駿を文字通り目の前にして、衣冷は焦っていた。
瞬間――。



――コンコンコンッ――


凄まじい爆音が部屋の中に響いた。





「――ぅるっせーな、おい」



薄い壁板に拳でノックした音、らしい。
ノックした本人はきっと優しくやったつもりかもしれないが、構造のせいか物凄く響く。

その上板が薄い。


ダブルパンチはきつかったが、衣冷は内心ガッツポーズだった。



「誰だー?」

『私ー』


「お引き取りくださーい」

『入るぞオラ』



ばきっと音がしたかと思うと、ドアが外れ、蝶番が時間差を置いて地面に落ちた。













「あ、れ? 飛来せんせ?」


「……………………………おい駿」


「あ?」


「……………………………説明、してもらおうか」





足枷がはまり、包帯だらけの痛々しいとも色っぽいともいえる我が愛すべき生徒。

を、押し倒している住民。






飛来 奏が味方すべき人物は、明らかだった。



2012/02/13 19:12 No.212

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

――与太話――

はい、皆さんHappyバレンタインッ
本編で書こうと思っていましたが、今日書くことにしました。
しかも番外編、的なww

皆さん、愛しのあの人にチョコをあげ、また貰いましたでしょうか。
ちなみに私のクラスでは、担任(女性)が一番モテてましたwww

ではでは、衣冷ちゃんたちのバレンタインを見てみましょー。


――――――――――――――――――――――――――――――


「はあぁるとぉぉおおぉおぉッッッ!!」

「うるせぇっ」


にっこりと自然な笑顔で衣冷は、窓から叫ぶ悠人を見つめた。
やがて支度を終えた悠人が玄関から出てき、衣冷はそのあとを追って軽く走る。


「ねぇ悠人ぉ」

「あ?」

「今日が何の日か知ってるー?」


「……旧正月?」

「いや、旧正月って……終わったと思う。ていうか知ってる人少ないかと思う」


衣冷の質問に対し、少し考えたあげくシュールな答えを出した悠人。
そりに軽〜く突っ込みながら、衣冷は『悠人ならこれは本気で言ってるわー』と思い、顔色を窺った。

いつもの完璧な無表情。
……窺うも何も、窺う表情そのものが無い。



「ヒントはねー。……あ、チョコレート!!」

「……は? チョコ? 何、初めて日本人がチョコを食った日?」


「…………悠人、今日何日か分かってる?」

「お前じゃねーよ。2月9日……。あ、肉の日?」


「私は何処のおばさんだっ」




スーパー田中では、9の付く日は肉のセール日です。




「きょぉーは14日ッ! バレンタインでしょぉっ」

「……へー。で?」


逆に切り返された……。
衣冷は必死に自分を奮い立たせる。こんな悠人の反応は予想済みだ。



「私、チョコ作って来たんだけどっ」


すると悠人は、今日初めて顔を動かした。
少し驚いたように、意外そうに眉を上げる。



「誰に?」
「…………」



だめだコイツ……。
まさか悠人が天然だとは思わなかった。

自分を棚に上げて衣冷は、両手で顔を覆った。



「……瀬川悠人くんにですっ」

「ほへー。そりゃありがとう」



素で答えた悠人は衣冷の頭を撫でると、長いふわふわした髪を弄った。
衣冷は戸惑い、悠人を見上げる。



「知ってた」

「……はい?」


「衣冷、お前チョコ作んのに失敗しまくったろ」

「……あ、うん」


悠人はにやりと口元を緩めた。




「叫び声、夜中まで聞こえた」

「嘘ぉッ!?」




失敗する度に「んぎゃああああ」「なあああああんでええええ」など叫び、ご近所様に迷惑をおかけしました。



「ありがと、まずくても食べるわ」



勝手に衣冷の鞄の中から取り出す悠人。
その瞬間、悠人の顔が固まった。



「………………………衣冷、ホントにチョコか?」

「チョコのー、つもり?」


えへへ、と照れ笑う衣冷を横目に、悠人は引き攣った笑みを浮かべる。

随分、雑な作り方だなぁー。






――与太話終了――

―――――――――――――――――――――


どーでしたでしょうか。
衣冷、結構お菓子作りは苦手ですw
でも悠人が料理得意なんで、きっとフォローしてくれます。

ではでは本編レッツゴー。

2012/02/14 21:17 No.213

緋雲☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

「なるほどねー。花橘さんが最近休んでる理由ってのは、よくわかりました」


駿を凝視しながら私は言う。
花橘さんは駿から足枷を外してもらい、痛むのか、足首を擦っている。

その様子で更に怒りが倍増した。


「んで? アンタは何で怪我を私に見せなかった!?」



駿は拗ねた子どもの様にそっぽを向いている。

仮にも保健室を預かる身でいる私だ。何故こんな大きな傷を診せに来ない。



「……奏に診せたらぜってー説教される」

「下手くそな手つきで包帯巻くより、私がやった方が数倍早く、良くなった」



全く以てくだらない理由だ。
自分の事しか考えない阿呆が。これだからいつまでたってもフリーターなんだよ。



「……えっと、私……家に帰ってもいいですか?」

「駄目だ」


遠慮がちに会話の中に入ってきた花橘さんを、駿は切って捨てた。
ていうか、家に帰るのは自由でしょ。



「この部屋から出たら、多分お前殺される」

「……?」


「柚杏が、見張っているはずだ」



柚杏・レイトン。
瀬川くんの狂ったストーカー。で、花橘さんを切りつけた奴。

非現実的な話、殺されるだろう。



「ここにいる間は守ってやろう。だけど、他の所に行くのは俺がめんどい」

「……」


「で、でも、私は悠人に会いたいです」



駿はスッと目を細めた。
顔立ちが整っている為、舞台役者のようだ。





「ほとぼりが冷めるまで、会うな」



花橘さんは、静かに目を見開いた。



2012/02/16 17:28 No.214

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

上のレス、名前違いますが冷雫です。

2012/02/16 17:28 No.215

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

上の上のレス、奏視線でした。
すみませんでした。グダグダです。

―――――――――――――――――


「じゃ、じゃあ悠人も危ないじゃないですかっ」

「そうだな。でも俺は瀬川クンを助けようとは思わねーよ?」


「何、で……!」


衣冷は駿に対してしつこく食い下がる。
毎日ほぼ欠かさず会って話した悠人なんだ。

何でこんなストーカーなんかのせいで会えなくなるんだ。


静かに憤慨する衣冷に対し、駿は眠たそうに奏を見る。



「……良いだろ、お前は」

「別に私はぼーかん者だし」


「傍観者ねー。良く言うよ」


事実上の傍観者 奏に駿は言った。
衣冷は唇を噛んで、僅かに出血し口内に広がる血の味を舐めた。


「私は悠人に会うもんっ」



色んな箇所にある痛い傷口を庇いながら、立ち上がり、とてとてと玄関に向かう。

だが――。



『…………早く来い来い来い来い出てこい、駿にぃの馬鹿何で庇うの』

「……!!」



玄関のドア越しに聞こえる小さな呟き。
柚杏の声か、もしくは衣冷の幻聴か。


2012/02/17 22:16 No.216

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「……」


ちーん、という擬音がまさにぴったりな雰囲気を醸し出しながら、衣冷は部屋の隅で体育座りして沈んでいた。



「あーあ。駿が泣かしちゃったぁー」

「お、俺は別に……」


棒読みで呟く奏に駿は焦るかのように胸の前で手を振った。
意外にもこういうモノには弱いのかもしれない。


「かわいそーな衣冷ちゃぁん。駿が酷い事言ったせいでー」

「だ、から……!」


「愛しい彼氏に会えなくて寂しいのにねー、ガサツな男に冷たく『会うな』とか言われちゃってー」

「聞けって奏っ」


「嫌な奴だなぁー駿って人は。かっわいそーな衣冷ちゃーん」



無表情ながら内心大爆笑の奏は、駿を責め立てる。

駿は遠く離れた衣冷の暗い姿に目を向けて、顔を引き攣らせると立ち上がり、不器用そうにその頭を撫でた。



「うわー、今度は変態こーい?」

「……違っ」


「………………………悠人ぉ」



「あああぁぁぁああぁッッッ!! ったく、分かったよッ!」



奏に責められ衣冷に追い詰められ、駿はキレ気味ながらも段ボールから上着を取り出した。

自分で着ながら不機嫌そうに駿は顔を顰める。



「行くぞ」

「……?」


「瀬川クン、会いに行くんだろ」



顔を上げた衣冷は、長い髪を微かに揺らして首を傾げた。
だが、そんな素振りも一瞬で吹き飛び、パァと明るい顔つきになり立ち上がった。



「駿さん、ありがとっ」



奏は僅かに眉根を寄せる。
駿の目が、輝いていたから。





傍観者として物語の進展、それは喜ばしいことかもしれない。
だが、駿に恋した今となっては、生徒の衣冷さえも恋敵である。


2012/02/18 13:10 No.217

葉浅☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS


「右かくにーん、左かくにーん、もう一度右かくにーん、もっかい左見てー……」

「駿っさん。何っ回確認してるんですかッ! 右左右、なのに何でそこで左がまた来るんですかぁッ!」


「しーっ 衣冷ちゃん静かにッ こっちは警戒してんだよ」

「警戒しすぎですっ」



衣冷と駿は何の問題もなくアパートを出た。
意外にも悠人の家(衣冷も)から近かったらしく、アパートと悠人の家の間にある洸希の家に、一時避難して、周りを見てからまた出るという作戦内容だ。


「……洸希くんの家って、近かったんだね…………」

「あ?」
「いえ何でも」


それにしても駿は警戒し過ぎだと衣冷は思う。
ほんの数メートルの道を渡るだけでも、何十回も左右を確認しようとする。

住宅街だから歩道は無い。渡る時の一時的危険さより、歩道が無いこの状況の方が危険だと思う。




「よし、奏が書いた地図によれば、これがコウキ君の家だな」


まるで図書館で会話するような小声で駿は正面の家を見据えた。


「いやいやいや、表札っ 見てっ」



表札『樋田』……誰ですか。
確か洸希の名字は『津田』だ。いやはや、作者も忘れてたわ。



「『津田』? んな苗字この辺にあるか……」



駿の視界に入った『津田内科医院』の文字。



「ん、あったな」

「何自分で納得してんの駿さん」



駿と居ると、衣冷は完全な突っ込み派らしい。
駿の事は完璧に常識人だと思っていたのだが。



――ピンポンピンポンピーンポーン――


騒がしく裏の玄関のチャイムを鳴らす。


――ピンピンピンピンピーンポーン――



「うるっさいですね誰ですかッ……ってあれ? 衣冷ちゃん?」


出てきたのは幸いにも洸希であり、衣冷を見て目を丸くした。


「あー、飛来センセのアパートの駿、さん。でしたっけ」

「……駿さん、今日何曜日?」

「水曜日だ」



洸希を訝しげに見る衣冷。
なぜ、今日は学校のはずだが。


「おれ今日は休んだんだ」

「なるほどー」


のんびりとした会話を押しのけるように、駿はずかずかと家にあがる。



「ちょ、ちょっと駿さん!?」

「ごめんなコウキ君。俺ら今人から逃げてるから」


玄関先に突っ立っている衣冷の腕をひいて中に入れる、駿。
洸希は呆気にとらわれながら、駿の持っていた地図を見ると納得したように扉の鍵を閉めた。



「飛来センセが絡んでるんですか」

「奏はコウキ君に『奏ちゃん』って呼んで欲しいらしいが……?」


「……」


衣冷は首を傾げつつも久しぶりに見た洸希を見上げる。


「洸希くんとセンセは仲良いの?」

「仲良いっつーか」


「らぶらぶです」


「ちょっと駿さぁん!?」

「……ホント、ですか」


「納得しちゃだめだよ衣冷ちゃんっ」



洸希も、苦労人だ。


2012/02/19 13:40 No.218

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「よしコウキ君、家の外に出なさい」

「は? 何でおれですか」


玄関の段差に衣冷を真ん中にして3人並ぶ阿呆な奴ら。
他人から見たらさぞかし異常な光景だろう。

駿はすでに目が逝っている。

どれだけ柚杏が怖いのだろうか。


「俺らが見に行ったら意味ねぇだろ」

「……おれは部外者なんですけど」


「関係ねぇっ」


どんどん過激な言葉遣いになっていく駿。
衣冷は僅かに苦笑しながらも、洸希に手を振った。


「ちょっと衣冷ちゃん!? おれに死ねって言ってるその手は」

「え? そんなこと、ないけど?」


「いやいや、その笑顔が怖すぎるわ」



――ピーンポーン――




『……ッ』


駿と衣冷が洸希に押し付けていた瞬間、津田家のインターホンが鳴った。
息をのんだ駿が、じっとしているのももどかしいらしく立ち上がり、恐る恐る玄関の扉を開けた――。





「……あ? 誰っすか」

「は、悠人っ……!」


「い、れい?」


そこには面倒臭そうにプリントを持って佇む悠人が居た。


2012/02/22 20:55 No.219

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

悠人
少し前に戻ってやる。

――――――――――――――


かったりー。
くそ佐ぁセンが……!


「……へー」


保護者への大至急プリントを『家が近いから』という理由だけでこっちの都合も聞かずに押しつけやがった。

俺は衣冷の方が良かったのだが、火野坂が問答無用で掻っ攫っていきよった。



体育祭まであと1週間もない。
1番楽しみにしていた衣冷が休んで、かれこれ2週間以上は姿を見ていない。

というか、まず認めたくないが俺のせいだ。

つーか柚杏・レイトンって誰だ。


昼休み、教室でのんびりしている所を放送で職員室まで来いという、佐ぁセンからの連絡。

行ったら行ったで男か女か分からない中性的な人が待っていた。
説明されたが俺には意味不明な内容だった。


「つっかれた……」



ナイフをある程度の距離があるにも関わらず、出血多量にさせるまで命中させるストーカー。
……ある意味最悪な人種だ。



『津田内科医院』の看板文字が見えた瞬間、全身の力が抜けた気がした。
なぜかとても疲労感がある。


「……衣冷見てないからか」


……ん? 今のちょっと変態ぽかったか?



――ピーンポーン――



ポストの中に投げ込もうかとも思ったが、明日佐ぁセンに何を言われるのかが分からねぇ。


怠くて顔を歪めて突っ立っていると、小さく玄関の扉が開いた。
あー、洸希プリント……。


「……あ? 誰っすか」



目の前にいたのは見知らぬ男。

その後ろで目を見開いていたのは、衣冷だった。

2012/02/23 20:51 No.220

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「うっわ本物だッ 久しぶり悠人ッ!」

「……え? 怪我治ったわけ?」

「離れてても私も気遣ってくれてたんだねっ」

「……そりゃ2日置きに『大家』とか名乗る奴が学校に来てたしな」


毎回放送で職員室に呼び出されれる俺。
おかげで周りからは『不良殺シノ裏番瀬川』という二つ名が付いてしまった。

……2日おきに不良殺して職員室呼び出しって、結構最悪な噂じゃん。



「つーかまさか俺のこと好きな奴居るとは思わなかったなー」


好き、というか執着。


「え、私悠人のこと好きだよぉ」

「お前以外で」


玄関先で俺は衣冷の頭を撫で、2週間ぶりに見たその顔に自然と頬が緩む。

隣では洸希が苦笑し、駿とか言う人はなぜか少し落ち込んでいる。


「悠人、まさかお前モテる自覚ねーのか?」

「んあ? そういう意味じゃ無くて、何つっかなぁ。その……『愛してる』?」

「……は?」

「私は悠人愛してるよっ」


洸希は珍しく呆れたように首を振り、駿とか言う人ははなぜか衣冷の言葉で更に死んだ。


……ん? まさか。


2012/02/24 14:27 No.221

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

上のレスも悠人目線でした……。
最近訂正多すぎだ……。

―――――――――――――――


「……。……じゃ、俺らは帰るか衣冷ちゃん」

「ふぇ?」



駿は虚ろに開く目を衣冷に向けて、悠人と洸希に一礼した。


「ちょ、ちょっと駿さん。今やっと悠人に会えたんだよっ」

「ん、だね」


「じゃあ何で――」
「駿さん、俺がこいつ構いますから」


焦る衣冷の言葉を遮って、凛と響いたのは悠人の低い声だった。
駿はスッと目を細めて悠人を凝視する。


「俺が、衣冷を守りますから」


冷静な顔をしてサラリと言ってのける悠人だが、その実内心顔から火が出そうだ。



「怪我も、治しますから。だから、――衣冷は行かせません」


一言一言区切りながらの言葉は、駿の中の地雷を踏んだ。
ゆらりと立ち上がって、玄関から駿は出て行った。

そして悠人は確信に至る。
……雛遊 駿は、衣冷のことが好きだ。




2012/02/25 11:37 No.222

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「衣冷ー……、」


――チャラリーン チャララ チャラリーン――


「あ、メール」


誰もが知るであろう『必殺仕〇人』のBGMが衣冷のケータイから鳴り出す。

洸希は呆れ通り越してどんよりした空気をまとっている。



「…………………………」


「どうした衣冷」



バッと顔を上げた衣冷の瞳はなぜか涙で潤んでいた。
ぎょっとして顔を引き攣らせた悠人にしがみ付き、首をがくがくと揺らす。


「ど、どどどど、どどど」

「落ち着け」


「――ど、どうしよっ おお、お母さんがっ お父さんがっ」

「あ? ハナタチ夫婦が何だって」


「私に無断で旅行に行ったッ!!」




……。
なぜか生まれた沈黙。

悠人は口を右手で抑え、左手を腰に当てた。

そして、震える肩を衣冷が見た。



「悠人……?」

「ぶっ」


衣冷が心配そうな声を出すのと、悠人が噴き出すのは同時だった。

ぎゃははははと、これまた豪快に笑う悠人の隣では洸希が首を振って自室に戻って行った。



「な、何なの?」

「……俺の家族も旅行中――お前の両親と一緒に」


「……え」


「いつの間にんな仲良くなったんだろうな」

「……ちょ」


「あぁ、母さんから伝言。最近物騒だから、衣冷ちゃんは私の家に泊まれ。これは伊吹から。んっと、頑張れ」



衣冷の固まった顔に赤みがさすのは、それからわずか4分後であった。

2012/02/25 13:54 No.223

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



私、きっと顔紅いんだろうなぁ。
……恥ずかしい。


「……ぃ。聞いてるかおい」

「ふぁいっ!?」


なぜか悠人の家に1週間ほどお泊りすることになった私。

無理矢理、な気がするけど。私も悠人と一緒に居たい。あぁー凄い恥ずかし。
やばいやばい。絶対1週間も持たないよぉ。


「ん、入れ」


何度か入ったことのある悠人、もとい瀬川家の家。



「え……っと。お邪魔します」


なぜか、とても緊張してしまう。
いつもなら普通に遠慮なく入れるはずなのに……。


全身が火照って、頭がくらくらする。

あ、駄目だよもう――。



「は、ると……」

「ん? あと早く靴脱げ」


すでに廊下の突き当たりまで進んでいた悠人に、声を絞り出す。

喉が震えて、声がうまく出せない。



「あ、たまが、痛いよ……」

「ちょ。おい、衣冷っ」


ふっと眠気に襲われた。



視界の端に見えたのは、少し慌てた悠人の顔。



2012/02/25 16:16 No.224

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目を覚ましてからも衣冷は、目を閉じて考えていた。

――最近意識手放しすぎ……。


駿や悠人に迷惑をかけて回っている気がする。



「衣冷、起きてんなら飯食うぞ」

「はぅ!」


悠人に耳元で声を掛けられた衣冷は跳ね起きた。
跳ね起きたついでに、寝ていたソファから無様に落ちた。


「下手な狸寝入りするなら、俺と飯食え」

「……悠人、ご飯作れたの?」


「お前じゃないから。ご飯ぐらい作れるわ」


洋風の部屋に似合わないちゃぶ台。
その上にカタン、と音をたてて置かれた皿。

そして皿に乗った食物。


「……これって」
「いただきます」


衣冷の声を遮るように、悠人は声を出しながらも手を合わせて箸を持った。


「ねぇ悠人っ これ作ってないでしょぉっ」

「何言ってるんだ衣冷。俺はちゃんとレンジで温めたぜ」


「……」


スーパー田中のお総菜コーナーで売られる、商品名『THE・弁当』が。

普通でさも当たり前の様に、プラスチック容器に入れられたまま皿の上に置かれている。


悠人は疲れたように箸を持つ右の手の甲で目をこすった。



「嫌なら食わなくてもいいけど。俺足りないし」

「え。これ嫌とかいう問題じゃないと思うんだけど」


むっとしたように顔を顰めた悠人は、箸をおいて腕を組み、呆れたような諭すような口調で語った。



「俺はな、衣冷。倒れたお前のために目を血眼にしてまで説明書を読んだんだ」

「……へ。説明書?」


「レンジの」


衣冷に劣らず、悠人の中々の料理下手だった。

2012/02/26 10:25 No.225

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「美味しいか……?」

「まぁ……それなりに」


「へぇ」

「……」



これから1週間ちょっとを好きな人と2人で暮らせる。
嬉しい半面、理性が持たなさそう。
少し心配はあるが、やはり俺は嬉しいようだ。

というか心配したり嬉しがる前に、致命的な問題が。


――会話が続かない……。




「あぁ、そういえば衣冷。お前今日からどこで寝る?」

「え? 家の中で」


「……。野宿という考えがあったのか?」


「た、多少」


全く関係ないが、最近衣冷の言葉使いが大人になったかなと思う。
出逢ってから1、2年間は間延びして、幼さが残るというか、幼い子どもそのものだった。
奇声をあげて擬音が多かった。

が、今は『多少』なんて言葉を使えるようになっている。



「俺ん部屋はベッド1つしかないけど。どっかから布団取ってきて床に敷くか?」

「えと、悠人の部屋で……?」


「……? もちろん」


「あ、あぅ……。はぅぅ」



前言撤回。やはりこいつは子どもだ。
高2の女子が『あぅ』なんて言いはしないだろう。


2012/02/26 13:19 No.226

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「で? 結局体調は大丈夫なのか」

「あ、うん。さっきは何か、ね。アレだよアレ」

「どれ」


衣冷は赤面して悠人に訴える。
悠人は片眉を上げて、衣冷を見つつ口に卵焼きを持っていく。


「……は、悠人と…………」

「は?」


どんどん語尾が小さくなっていく気がする。

割り箸を上下にカチカチと合わせながら、衣冷はゆっくりと言葉を発する。



「…………は、るとが何か。悠人と私、が、夫婦に……!」

「うっわ。衣冷、お前の妄想は大丈夫か」



含み笑いで答える悠人の意地悪に、衣冷は両手で顔を隠して恥じらう。

2012/02/26 14:41 No.227

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衣冷の頭の中が妄想で爆発寸前の頃、瀬川家の門外には怪しい影が行ったり来たりしていた。

闇夜に蠢く人の形をしたそれは、玄関前で律儀にもインターホンを押した。


――ピーンポーン――



「ふな?」

「……噂の柚杏、とかいう奴じゃ」


「……」

「ま、用心に越したことは無い」


悠人はすぅっと目を細めると、静かに廊下を歩いた。



「は、悠人っ」

「しっ……。衣冷は待っとけ」


リビングの角から玄関を見つめる衣冷の首。
少しシュールだと悠人は苦笑し、鍵を開けて扉を小さく、開けた。



「こんばんは」

「……誰」


悠人の正面に無表情で立っていたのは、懐かしくも忘れ去られた、





「久しぶり。匡髪 翔太だ」



そう、國上の中の國上。匡髪 翔太。


2012/02/26 20:06 No.228

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 匡髪 翔太とは。冷雫ペディア参照

衣冷が葵のせいで骨折して病院に入院した際、なぜか同室になった小6の男の子。
國上機関の出であるが、妾の仔。だが國上の中の國上であるため生かされた。
学校には始業式と終業式しか行ったことが無い。
その学校でとある理由から『地獄耳の翔太』という二つ名を持つ。
衣冷曰く生意気。
衣冷の彼氏である悠人に宣戦布告した。

一人称:僕

病院編 ナンバー 81〜

2012/02/26 20:33 No.229

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「にしても久しぶりだね、翔太くん」

「んー」


「ああ、あのガキンチョ」


翔太はリビングにすんなり入り込み、ソファにぼすんっと座った。
相変わらず幼さが残るものの整った嫌味な顔立ちをしている。無表情に正面の衣冷を見つめ、僅かに片眉を上げた。


「あれ? アンタってこんなだっけ」

「……え?」


「ん、何でもねぇ」


悠人はというと不機嫌そうに顔を歪めていた。

翔太が衣冷と喋るのが気にくわないのだろう。



「そーいえばさ。……化野 サクラって知ってるでしょ。柚杏・レイトンと並べて」

「何でお前が知ってんだ? どっちもストーカーで……」


「で、お互い友達だった」

『は!?』


しれっとした顔で翔太は悠人の弁当からミニハンバーグを摘まみ食べた。
とんでもない爆弾発言を投げつけ、翔太は人ん家の冷蔵庫から牛乳を取り出してラッパ飲みした。


「ちょ、お前」

「で、どちらも死にました」

「………………嘘」


「ホント」

「な、んで」


サラリと述べた言葉に、衣冷は凍りつく。
悠人はスッと目を細めて口端をピクリと動かした。


「化野の部屋でなぜかウナギの蒲焼きを作ってたらしい。七輪からやったは良いが、窓を開けていなかった」

「……なぜこの時期にウナギ……」


「結果、一酸化炭素中毒」

「馬鹿だ」


吐き捨てる悠人とは違って、衣冷は物も言えずに翔太と悠人を交互に見詰めていた。


「何だ、衣冷」

「ううん。何でもない。ないんだけど、何か…………身の回りで人が死んだのって、初めてだから」


微かに震えた睫毛を見て悠人は苦い顔をする。


2012/02/27 20:48 No.230

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「つーかさ、できすぎじゃないか? そのウナギの蒲焼き事件」

「さぁ? ま、それほど世の中は狭いっつーことだ」



翔太が衣冷よりも大人に見えるのは気のせいだろうか。
病院にいた頃は緑がかった色の病院服を着ていたせいか、少し虚弱に見えたものだ。

だが今は、勝手に牛乳を飲み干すわ、テレビは点けるわ、衣冷をじっと見るわで生意気ともいえる。

衣冷の観察眼は実は俺よりも良いのかもしれない。



「ねぇアンタ」

「……私?」


「うん。何か、何か成長したね」

「ほぇ?」


間抜けな顔をした衣冷を笑い飛ばしもせず、来た時と同じように首を傾げて直視する。
翔太の言葉を聞いて俺も衣冷を見たが、成長したというよりは、大人しくなったと表現するに良いだろう。


「ん〜。……やっぱ恋かなー」

「ぐふぅっ」「げぼっ」


しみじみと呟かれた翔太の言葉に、衣冷はともかく俺まで茶を吹き出してしまった。

そこらにあったティッシュで急いでちゃぶ台を拭く。
不思議なものを見るような目で翔太は俺を見て、そして面白そうに目を細めた。


「何だ、アンタもぞっこんだね」

「……うっせ」


「別に良いんだけど。僕今片思い中だから」


喉の奥で微かに笑う。
なるほど、翔太も恋したってのか。


「ちょ、え? 翔太くん、誰、誰を好きになった――」

「そーかそーか、翔太。お前も頑張れ」

「ん。じゃ、今日は近くを通り掛かっただけだから」


「おう、じゃなっ」

「へーい」


無駄なことを口走る衣冷の口に平手でふたを閉じ、その後翔太は疾風の様に去った行った。
衣冷は鈍感で、それに古文も現国も直視できないほど酷い成績だから。

だから、分からないだろう。

――翔太がお前に片思い中だということを。



「……ま、分かんなくていいんだけ、ど」

「ぷはぁ……え? な、何が?」


「何でもねぇ」


2012/02/28 19:50 No.231

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「……あー、騒がしい客だった」

「私居なかったらどうしてたんだろ」

「は? 俺に会いに来たんだろ」

「……じいしきかじょぉーっ」


時刻は既に12時を過ぎ、『修学旅行1日目では何時間でも起きられる』という法則に基づいて、衣冷と悠人はまだテレビを見ていた。
衣冷はニコニコと、でも少し眠そうな顔をして悠人にべったりで、悠人はといえばいつものポーカーフェイスで分からない。


「はぁるとぉ」

甘えたような、でも飾った様子の無い衣冷の声。


「……気色悪…………」

「ひっどッ!」


少し笑いを含む声で罵倒する衣冷。
悠人は軽く頭を振って立ち上がった。


「寝るか。風呂はー、明日の朝にでも入って。どうせお前朝起きるの早いだろ」

「う、うん」


悠人はどもった言葉に首を傾げたものの、衣冷の腕を掴んで2階に上がった。




2012/02/29 19:52 No.232

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「ん、これ。枕代わりに使って。俺が床で寝る」

「え」


大きめのバスタオルを3〜4枚衣冷に渡して、悠人は自分で床に敷いた布団に寝転がった。
自分の枕を頭の下に置いて、気が抜けたように息を吐いた。


「ちょ、私が下で寝るからっ! 悠人は上で寝てっ」

「あー? 今からベッドに這い上がるのめんどい」


「1メートルもないでしょっ」


衣冷の焦ったような声に悠人は一瞬無表情になった。
だが、困ったように髪をかきあげると声を出して笑った。



「俺が下で寝たいの。『たまにはかっこつけさせろばーか』」


凄い棒読みだったが、それでも衣冷は一瞬で頬を赤く染め上げ、あわあわとベッドに座った。


「ね、ねえ悠人」
「んー?」

「えと、そのぉー!?」


語尾を上げて驚いた衣冷の体勢は、悠人に腕をひかれたため悠人の上に覆いかぶさっている状態になった。
柔らかい身体に腕を回し、耳元で囁く悠人。


「……なに?」


少し掠れたような低音で、既に湯気がたっている衣冷は手をぎゅっと握る。


「えと、えと」


――刹那、ぎゅるるるるぅぅと、場違いな腹の虫が鳴いた。
悠人は衣冷の頬を片手で掴んで自分の方に向けた。


「……おい、お前、わざとじゃないよな?」

「そ、そんなわざとできるほど器用じゃな――」
「器用じゃないしなー」

「ちょっと……」


眉尻を下げた衣冷を見て、悠人はスッと目を逸らした。
ゆっくり目を閉じてそのまま衣冷を押し倒したように、反転して上になった。


「ほぇ……」

「少し、は、……考えろ」


訳が分からないといった風にウロウロしていた両腕を頭の上で組ませ、右腕で押さえる。
目を伏せて俗っぽく衣冷を見つめる悠人。


「お前は、女だ。一応ガキみたいな性格でも、俺の好きな奴だ」

「……う、うん」


「そして今の俺は我慢が利かない」

「……?」


悠人は、静かに衣冷の唇に其れを重ねた。




2012/03/01 22:08 No.233

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「……ろ。――衣冷、起きろっつってんだろッ!!」

「……うああッ!!」


耳元で叫ばれた衣冷は、たまらず飛び起きた。
訳が分からず辺りを見回すが、1番最初に視界に入った顔を見て頬を染めた。


「悠人だああああッッ!!」

「何の悲鳴だぁっ」


制服姿で怒鳴る悠人の顔を直視できない。
ただただ、身体や顔から火が出そうなほど恥ずかしい。



「お前っ 寝起き悪すぎっ」


時計を確認する。


「きゃあああああっ」



史上最強の大遅刻決定。







こうなるのには、理由があった。

2012/03/03 12:50 No.234

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結構前にも、こんなことがあった。

いつだったけ。

確か退院した時、建物の裏の方で。


唇に伝わる感覚に、一旦脳が思考を停止する。
その間にも、唇は角度を変えて深く入り込んでくる。


『……』


キス、キッス、接吻、口付け、ベーゼ、ちゅー。


十数年生きて聞いたことのあるこの状況の言葉が心に雪崩れこむ。



「……衣冷ー、これから先は何もやんねぇけどさ、少しは自覚しろって」


意味分かる、付け足された言葉に首が落ちそうなほど上下に振る。
溜息を吐いて悠人は起き上がった。



「んじゃ、俺寝るわ」

最後にもう1度、悠人は私を一瞥し、それから苦笑して。



「……っ」


――、頭を撫でた。




ああ、私、衣冷は今夜は眠れ無さそうだ。

2012/03/03 16:45 No.235

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冷静に見えて、あの場で1番狼狽えていたのが俺だ。

朝、随分早くに起きてしまった。
いつも早く起こされるから、遅くに起きようと思っていたのだが、しょうがない。



――――――――――――――――――――――――――


そして今に至るわけだ。


「こりゃもうだめだ。途中で気付きゃぁ良かった」
「……ご、ごめんなさい」
「お前の母さんファイターだな。朝っぱらからんな重労働」
「……す、すみませぇん」
「もう良いよ」
「うんっ!」
「黙れ」


結論、衣冷は物凄く寝起きが悪い。

現在の時刻午前10時だ。
学校に行くのはもう諦め、暇な1日が幕開けたのである。


2012/03/03 16:54 No.236

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「ねぇねぇ、今日何するのぉ?」

「はぁ?」


制服から部屋着に着替えた悠人は、リビングのクッションを抱いて首を傾げる衣冷を見て首を振った。


「……やばぃー…………」

「はぁると?」

「黙れよもう……」


悠人は口を手で覆って衣冷を冷めた目で睨んだ。

始めの頃は臆せず話しかけていた衣冷だが、悠人に嫌われたくないという思いのせいで、すごくこの視線が怖い。



「衣冷、お前にこの家で暮らす条件を言い渡すっ」

「……ふ、ふぇ」


「上目遣いを禁止する」


「……」
「……」

「冗談」


衣冷の背の低さが招いた結果だ。
悠人は内心悶えていた。

不本意ながら、いや、正直に素直に可愛いと思う。



「我慢のげん、かい」

「我慢というと……」


「よし衣冷。お前ん家行くぞ」

「え? 何で」

「出かける。お前と2人っきりだと襲いたくなる」


含み笑いをして悠人は言う。

2階に神速で駆け上がり、服を着替えると、急いで降りてきた。



「着替えに行くぞ、衣冷」


「う、うんっ」


可愛い。
そう素直に思える自分が、悠人がいた。

2012/03/05 19:50 No.237

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花橘家の玄関先で1人ふっと息を吐く。

いつもと変わり映えせず、ジーパンに英語でロゴが入った黒い長袖のTシャツ、上から深い青色のパーカー。
我ながらバリエーションが少ないな、そう思いつつも衣冷を待つ。


「あぁ、ごめんっ 選んでたら時間が……!」

「ん、あぁ」


振り返った悠人の視線は、そのまま衣冷を通り過ぎて扉を開ける自分の手に向かった。

秋らしく暖色系をベースとして、渋めな赤色の半袖ワンピに白い薄いカーディガンを羽織っていた。



「どこ行くのぉ?」
「どこ行きたい?」

「悠人が決めていいよ」
「俺んな場所知らね」


住宅街を抜け出し、公道に出る。
歩道を歩いていると、横を素晴らしいほど速くトラックが追い越す。



「あ、そうだっ」

2012/03/06 20:07 No.238

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「じゃじゃぁぁあんっ!」

「…………んだここ」


「何と何と、全国の学生さんたちが勉学に励んでいる中。私は悠人と買い物をしたいと思いまーすっ」



横に大きい、4階建てのデパートを目の前に、悠人は半眼で衣冷を見つめた。

どんよりと苦笑いをして、弾けた衣冷の頭を撫でる。


「じゃあ行こっか」

「……ま、いっか」


自然な様子で衣冷の手を繋いだ悠人は、まるで妹である伊吹より年下の下級生と接しているような気持ちだった。



「最初、どこ見るの」









「……え? まずはお昼ご飯からでしょ」





2012/03/09 21:32 No.239

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行き成りだが、読者の皆様にお知らせだ。
馬鹿な作者は気付いた。

それは、私が書いているという事は伏せて、友達に読んでもらった時。


『おもしろいね、さすが冷雫が愛読してるだけあるー。でもさ……何か展開遅くね?』


てんかいおそくね?
てんかいおそくね?
てんかいおそくね?
……。


がーん。
長編が面白いだろうと1年にいろんな行事を詰め込みすぎているのか私は……!!
確かに考えてみれば未だに衣冷たちは2年生。

しかも初っ端から1年省いて2年から始まっているのだ。
これはこれは。なかなか的確なとこを突いた友達だ。





てなことで……。





時は過ぎ去り、無理矢理だが衣冷たちは高校3年生になった。(笑)


2012/03/10 20:11 No.240

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「悠人ぉっ 悠人のことは忘れないからねーッ!!」

「……忘れられて堪るか」


人の波に乗せられて、衣冷は行ってしまった。
1組に。


「また変に分かれたねー」


1組――花橘 衣冷・唯与森 伊月
2組――瀬川 悠人・火野坂 葵
4組――津田 洸希・國上 晴樹


「ていうか、伊月が衣冷と同じクラスってのが気に入らない」

「足速い奴ばら撒いた結果じゃん?」


葵が悠人の隣の席に座る。
イラっとした表情で悠人は隣を一瞥した。


「自分の席に座れよお前」

「あたしの席、ここ」

「はあ?」


教壇の目の席に座る悠人。
真正面、というレベルではない。
舟を漕いで教壇に頭をぶつけそうだ。


「近い……」

「まあ、運が悪かったという事で」

「衣冷と離れたのが一番きついな……」



「へーっ じゃあ瀬川くんは本当にハナタチと付き合ってんだ」



騒がしい教室が、その女の声で静まり返った。
睨みを利かせながら声がした方向に目を向ける。

そこには、ギャルが居た……。

2012/03/11 10:49 No.241

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何だこいつマジで見てるだけでウザいわー。

いつもより不機嫌な俺の視線に少し慄いたように1歩下がり、その女は笑った。
ギャル、というよりブリっ子?

長いストレートの髪を頭の高い位置でツインテールし、その結ぶリボンはショッキングピンク。
前髪は何本ものヘアピンで留めて、シャツは第2ボタンまで開けてスカートは痴漢されても文句は言えないぐらい短い。



「…………、……。それで火野坂、お前ー」

「無視しないでよぉっ!」


気色悪っ
何なんだコイツは本当に。

衣冷の間延びした声が『金平糖』ぐらいなら、こいつの声は『アメリカで売ってるチョコ菓子』並みに甘ったるい。
そしてくどい。



「あー、誰?」

「百鳥 萌々子(モモトリ モモコ)っ! 覚えてね?」


聞いたことねぇ。
ていうか顔すら見たこと無い。

俺が興味ないと言わんばかりに目を逸らしていると、百鳥は爆弾発言を教室の中にぶち込んだ。





「うちねっ 入学した時からずぅっと瀬川くんの事好きだったのっ」




……。
ああ、そう。

だがこの発言には続きがあった。



「瀬川くんとカレカノになりたいから、うち頑張るっ ハナタチから奪ってあげる」




『奪ってあげる』というのは日本語的に間違ってると思う。
つか無理だろ。




「俺が衣冷からアンタに心変わりしないから、努力すんのも無駄」


「ううんっ うちの魅力だったら、瀬川くんも絶対に好きになるから」



若干前かがみになって話す馬鹿。
ああその無駄にある脂肪からできたデカい胸を強調させたいのか。




「好きにすれば? ……とでも言うかと思ったか? バーカッ 絶対にやるな、目障りだ」



2012/03/12 20:37 No.242

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「瀬川くん、瀬川くんっ 一緒にお弁当食べよ?」
「散れ」

「なぁーんでぇーっ どうせ瀬川くん暇してそうじゃぁん」
「……3」

「ねぇねぇ」
「……2」



「はぁるとおぉぉッッ! お昼、食ぁべよぉー」

「んあ? ああ。ちょっと待ってろ」


高3になって3日目。
初めての昼休み。

3日の間にも百鳥は悠人にべたべたくっ付きまわり、その悠人と主に行動する葵はキレ気味だった。


「……瀬川、あたし先行くわ」

「え、こんな奴の隣に置くな」
「限界なんだよぉっ!」

「……」


まあ火野坂、1番イライラしてそうだもんな。
そう思わざる得ない悠人だ。

教室の扉の前では衣冷が弁当を手に楽しそうな笑顔を浮かべて立っていた。


葵が衣冷の所に行くと、悠人は焦って弁当箱を取り出す。



「ねー瀬川く――」



「なあ、分かってるだろうけどさ。……アンタ、相当ウザいよ」





しんと張りつめた空気が静かなる教室に浸透する。

その波紋の中心点である悠人はすぐに立ち去り、訳が分からないで混乱する衣冷と冷めた目の葵のもとへ行った。




「……っ」



『で、でさぁそのコロッケ屋が』
『コロッケ屋ぁ? お前妹の話、してたろ』
『じゃ、じゃあ弁当食べにいこっか』
『教室じゃ無いとこで、ね?』


慌てて喋りたくるクラスメイト。



怒りに震えた身体を拳に込め、百鳥は近くの机に叩きつける。
激しい音が響いて遅れて百鳥のツインテールが揺れる。



「……あ。こんな方法じゃ無理だ」





思ったよりも冷静な声が、百鳥から聞こえたと誰かは言った。

2012/03/13 16:44 No.243

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS


ああもう何でクラス離れちゃったんだろぉー。
……最悪だ。

読者様に忘れられがちだが、私は友達がほぼ居ない。
ていうか、友達と呼んでいいのかが分からない。


だから気軽に話せる相手が伊月くんしかいない。

友達、作らなきゃな――……。



「……っ!?」




視界にドアップで入ってきたのは誰かさんの腕。
それはがっちり首に回され、後ろに持っていかれた。

後ろに反り返って転んだ私の鼻と口にガムテープを張り、微かに隙間を開ける誰か。

顔、は……ツインテールの女の子。
物凄い形相で睨んでる。ていうか誰この子。


でもすぐに視界も布らしきモノで隠される。
真っ暗になりまぶたの裏をただひたすら見つめる。


冷静に解説してるけど、けっこう内心パニックだよ衣冷。


「……んーっ!!」


鼻から抜ける様な高い音を喉から出す。


「うるっさいなぁ、ホントに。何で瀬川くんはこんな奴好きなんだろ」


瀬川くん……?
それって悠人のことなの?

はてなでいっぱいの私の腕と足を後ろの方で紐で結ぶ。



「んじゃあー、こいつ。校庭にある体育倉庫に連れてって良いよ。あれよあれ。あの校庭の端っこ側にある汚い……。体育館の倉庫じゃないよ?」


まだ、人がいるのか。


瞬間、乱暴に身体を掴まれて地面を引き摺られる。



「!?」


痛い痛いっ
す、砂が制服の中に!!


しばらく無骨な手で引き摺られ、そしてしばらくすると止まった。
一旦離される手。



「……っ」


逃げようと身をくねらせるもののすぐに掴まれて、そう。きっと体育倉庫に入れられた。




「さーさー、花橘 衣冷ッ! アンタは今から――死ぬのよっ!」



女の子の声が耳に入る。


……。刹那、身体に鈍い痛みが奔った。



2012/03/14 22:07 No.244

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS

上、衣冷視点なんで[森3]でした……。
すみません、読んでる人いるか分かんないけど、すんません。

――――――――――――――――――――――――――


「んんぐっ……!!」


振り落とされた足の爪先が鳩尾に入る。
くもぐった声をガムテープの隙間から漏らしながら、激しく息を吸い込む。

視界を遮られた暗闇の中、衣冷の細い今にも折れてしまいそうな体躯は何度も跳ね返った。

殴られ蹴られ、踏みつけられる。



「……ッ!!!!」


息が詰まる。
背中を何か固い物に強打し、鋭い痛みが全身に回る。


「ほんっとにウザいのぉっ! 黙って教室の隅にいればいいものを瀬川くんに近づいてッ……!」

「――」


1人は女だ。
あと3人はいる。しかも男。



「っと、そろそろいいかな。じゃー、ね。お元気で」


女の嬉しそうな声が聞こえた。


――じゃあね? お元気でって……置いて行くのっ!?



苦痛に奇麗な顔を歪める衣冷を放って、数十分に亘って暴行を加えた4人は倉庫から出る。
月明かりが布越しに差した瞬間、何かが上に乗った。

足。




「うぅぐ……っっ!!」


足が肺を圧迫して呼吸を妨げる。
ガムテープの小さな隙間から精一杯空気を吸うも、限界があるようで。



衣冷の意識はそこでぷっつりと、途切れた。


2012/03/15 21:07 No.245

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「夜分遅くにすいません。うちの子がそちらの家に行ってないかと思い……」

「……うちの子って、衣冷?」



夜中の2時半。
俺ん家を訪ねてきた相手の言うとおり、ホントに遅い。

俺以外は誰も起きてこないようで、眠い目擦って玄関開けただけあって凄い情報を手にした。

玄関の前に立っていたのは衣冷の母さん、龍子さんだった。



「そうなんよー。何でか衣冷、全然帰ってけーへんの。何か知らない?」


似非な関西弁を使う龍子さんの目はなぜか妙に座っていて、帰らない衣冷に対して怒っているようだった。



「いえ……何も知りませんが」

「あらそう。ごめんね悠人くん。じゃあこれから葵ちゃんの家にでも行ってみようかしら」

「……火野坂ん家って結構遠いですよ。俺が電話します」

「お願いできるかな」



寝るときにケータイを握っていたらしい。
そのまま握ったまま1階まで下りてきていた。




「もしもし火野坂?」

『……誰?』

「俺」

『――詐欺?』

「瀬川悠人だ。衣冷が家に帰ってこないらしい」

『……………………あー、どんぴしゃか』

「は?」

『今から学校来い』

「おっけ」



訳が分からないことを抜かして、火野坂はぶっつり切りやがった。

龍子さんは俺よりも眠そうな目でひらりと手を振った。



「じゃあ、うちは帰りを待つだけね」

「え」

「よろしく、悠人くん?」

「……」


自由な人だった。

2012/03/16 20:36 No.246

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS


「呼び出した本人の方が遅いってどういう事だよ」

「あたしの家の方が遠いの」

「へー」

「とりあえず、こっち来てみろ。絶対当たる」



閉まっている校門を軽々と2人は乗り越え、悠人は彬の東小に乗り込んだ時の衣冷を思い出した。
そう考えるとさすがは葵という所だ。

無言で葵の後ろを歩く悠人の視線の先には、ところどころ雑草が生えた校庭(グラウンド、運動場)が見えてきた。



「何でこっちに行くんだよ」

「――百鳥 萌々子」

「……何でこっちに」

「流すな」



軽く笑いを含んだ声で葵は隣を歩く悠人を見た。
そしてすぐに吐きそうな顔をして、


「サイテー女」

と呟いた。
同性から嫌われるとロクなことは無いだろうに。



「で? その百鳥が何だ?」

「あれ、お前のことなら何でもやるぞ」


「てゆーと?」


「監禁、暴力、もしくはレイプ」


「……!?」

「あくまで可能性の話」



悠人の目はすぅっと細くなり、眉根を寄せた。
頭を振って、少し長くなった前髪を顔から払う。



「衣冷に恐怖心を植え付けて、」

「……衣冷は」


「それで……え?」

「衣冷は、どこにいる?」


葵は一瞬固まったが、ふっと笑って足を止めた。



「あっち」


細く長い人差し指が示す先は――体育倉庫。




刹那、悠人は葵の隣には居なかった。



2012/03/16 21:22 No.247

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「いれいっ……!!」



十数メートルしか走っていないのに、息が絶え絶えで、暗い倉庫の中が歪んで見えた。

その暗闇の中で一際黒く陰った塊が床に落ちている。



――パチンっ――


ラップ音のような音を立てて、倉庫内の明かりをつけた。



「……お、い。大丈夫か」



石灰が撒かれた地面に倒れていたのは、手足を縛られところどころ解れた制服を着る。
火野坂の予想通り、衣冷だった。

血の気を失った白い綺麗な顔は何もないのに、腕や足や腹には打撲の跡が何十か所にも亘ってあった。


……目立たないところを狙ったのか。

腹に至っては布越しにも分かる青あざがある。



「衣冷っ……!」


暗闇が不安にするのか、口から出てきた自分の声はなぜか押し殺していた。

長い髪は背中の中間辺りでバッサリ切られ、不揃いな毛先が痛々しい。
微かに上下する胸だけが、生きていることを知らせていた。



「無駄に触れないほうが良い」

「……火野坂、か」


追い付いた火野坂の声が後ろからする。



「どうすれば良い?」

「……あたしにも分からないよ。ただ、――辰巳に頼むっつーのはどう?」


「宙ぁ?」

「元不良だろアイツ。対処法でも知ってんじゃない」



一気に不機嫌になるのが自分でもわかった。
なぜか、宙といい伊月といい。俺は親戚に対してあまりいい印象を持っていないようだ。



「……宙の家、俺知らねーぞ」

「じゃ、行きますか。あたし知ってるし」



視線を衣冷に戻し、その首の後ろと膝裏に手を入れて抱き上げる。
だらりとぶら下がった腕を火野坂が腹に乗せる。


「ひゅー。カッコいーじゃん王子さま!」

「……黙れー」


2012/03/17 12:08 No.248

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「で、オレのとこに来たと」

「……」
「そゆこと」


「怪我の手当ては別に良いけど。……悠人は何で不機嫌なの」

「俺も聞きたいんだけどさ、何で伊月がいるの」


「俺かよっ」


辰巳の家は、家というかアパートで、しかも1人暮らしだった。
そこに葵と死にかけの衣冷と一緒に来たものの、ドアを開けた人物の顔を見て一瞬で真顔になった。


「しょーがねーじゃん。オレだってちゃんと門前払いかましたよ?」

「でも俺は粘り強く頑張ったっ」

「結果、これ」


微かに溜息を吐いた悠人に、問題の伊月まで機嫌を損ねたような顔になる。



「お前の家じゃねーだろ」

「……お前の家でもねーだろ。つかお前も1人暮らしだろ」


零下68度の冷たい火花が間を飛び交う。
だが、それも辰巳の声で切れた。


「……悠人ー。衣冷ちゃん、誰にやられたんだ?」



辰巳は衣冷の怪我を慎重に撫で、あざを凝視していた。
側でその様子を見ていた葵は切れ長の目を細めて、口を開く。


「瀬川の事が好きな女子。……クラス全員の前で思いっきり罵倒したからね、瀬川」

「……うわー、何とも言えねー。昼ドラ並みにドロドロだな」

「伊月は黙れ」



首を振った辰巳は呟く。


「手当ては任せろ。だからお前ら帰れ」

「もう3時過ぎてるんですが」


「知るか」



葵が唇を尖らせた。
まだ、辰巳の事が好きなのに。


2012/03/20 11:58 No.249

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS



「火野坂、衣冷来てたか?」

「休みだってさ……昨日も家に帰ってなかったみたいだし」


「マジか」



翌日、悠人と葵は演技をしていた。
ポーカーフェイスな二人組とあって、誰も疑わないベストコンビだった。

耳聡く振り向いたのが、苦笑気味の友達と話していた百鳥。

にっこりと笑みの形を取った口元が嫌らしい。



「ねえ瀬川くんっ ハナタチは?」

「……家に帰ってないし、学校も休んでいたんだって」


「それは心配だねー」

「……――そうでもねぇよ」


「え?」



百鳥はうざったらしいツインテールを揺らした。
大袈裟に首を傾げてみせる。

本人は魅せてるつもりだろうけど。


「……百鳥、昼休みに屋上、来てくれ」


「? 分かったよ」



嬉しそうな様子を押し隠している。
みじっかいスカートを翻して百鳥は友達の輪に入って行った。



「んぐぅ――」

「あと少しだ、頑張れ瀬川」



鳥肌が半端ないんです火野坂さん。

我慢する悠人である。

2012/03/23 20:16 No.250

冷雫☆UU/Czzk1Ogc★1sTKPEkFqJ_dYS


「火野坂ぁっ 多分もうすぐ来るっ……!」

「……おっけ」


授業が一段落し、昼休み。
屋上では悠人が葵にサインを出していた。

この学校の屋上は、ドアを開けるとすぐに平坦な屋上が見える。
そしてそのドアがある校舎(階段)部分がブロックの様に突き出て、その上に水タンクがあるのだ。


屋上の鍵は昔『ミス・猫被り』の二つ名を持っていた葵が『絵の参考』という嘘を吐いて借りてきた。



「……準備は?」

「万端だっつの」


――たん、たん、たん。



瞬間、屋内から階段を上る音が聞こえてきた。
少し嬉しげな弾んだ軽い足音だ。

悠人が1歩ドアから下がる。



「――瀬川くんっ!」


抑え気味にドアが開かれ、予想通り中から百鳥が出てくる。
悠人は微かに頬の筋肉をピクリと動かしながらも、完璧の笑顔で迎えた。



「百鳥、率直に言うがお前が、お前の事が」


「待って。『百鳥』とか『お前』じゃなくて、名前で呼んで」



百鳥はうっとり酔い痴れた目で悠人を見上げる。

頬から眉に移り、片眉の端がピクリと動く。
そんな悠人の頭に小さなどんぐりが落ち、跳ねてフェンスの向こう側に逝った。

微かに顔を顰めて視線を上に持っていくが、すぐに百鳥に戻す。



「萌々子――……」

「なに……?」


摺り足で近付き、百鳥の首筋に手を当てて引き寄せる。
そして悠人は口から出る予定の言葉に吐き気を催しながら小さく耳元で呟く。






「……萌々子の事が好きだ、――っ」


瞬間足で百鳥の胸を蹴り切り離す。

幸福に目を潤ませた百鳥は信じられない目つきで悠人を見た。
そのまま後ろに倒れこんだ百鳥は、アスファルトに尻もちをつく。

言葉を発そうと口を開くが、その口も水で覆われた。



「きゃあーっ!」

「よ……っいせ、っと」


水タンクの裏に隠れていた葵が上から水をかけたのだ。

スカートの折りひだを上手く使って飛び降りた。



「っバーカ」

「思いっきり軽蔑してやんよ」


長身の2人に見下ろされ、百鳥は濡れたまま立ち上がる。
意識して胸を突きだすようにしてブレザーを脱ぐ。


「もぉっ シャツが濡れちゃったじゃんっ」



「下着が透ければ色っぽいとでも思った? 瀬川が落ちるとでも?」


羞恥にかあっ、と赤くなる百鳥の顔。
葵の流し目はさすがというべきか、幼稚な百鳥とは異なる色気があった。



「だったら。あたしなら普通にしてるだけで瀬川は落ちるね」

「……何お前、まさか」

「自負してるわ」

「……」
「引くな馬鹿」


百鳥は赤い顔のまま屋上を飛び出していった。

2012/03/26 20:43 No.251

冷雫★1sTKPEkFqJ_dYS

  −花橘 衣冷−



ぐあー。
緊張してきたぁー。

宙先輩のお家で先輩と2人だよ。
ヤバイよ。
前ほどじゃないけど凄い怖いよこの先輩。



「おい」

「……ひぃっ」


「やぁっぱ狸寝入りしてたな」

「……ご、ごごごめんなさいっ」



敷布団の上に寝かされていた私の身体は、宙先輩がやってくれたという包帯や湿布でいっぱいだった。

確かツインテールの女の子。
話からして悠人が好きらしい。

……そりゃね、悠人、モテるもんね。
悠人は悪くないのに涙があふれてくる。



「先輩、ありがとうございます」

「いーえ。一応衣冷ちゃんに迷惑かけたことあるし。怖がってたら意味ないけどね」

「……ホントにすみません」



恐縮するばかりです。
宙先輩はカッコいい。けどやっぱりチャラい人だ。

こうやって看病して貰っていると女の人が何回も訪ねてくる。
しかも全員違う人だ。

1度先輩がお風呂に入っていて私が出た時があった。

そしたら何かめちゃくちゃ怒って私のほっぺた引っぱたいて帰っちゃたからね。
とばっちり。


先輩が謝りながらほっぺたに湿布を貼ったのが印象的だ。
女の人の気持ちも分からなくもない。

好きな人の家に行ったら、包帯湿布だらけの寝巻姿の知らない女が出てきたら、そりゃ怒っちゃうよね。


悠人だったらって考えたら、いや。




考えるだけでとても怖くなるから考えないことにする。




「相変わらずらぶらぶだねーお前ら」

「先輩も色んな人とらぶらぶでしょ」


「……ホントの好きな人とは冷戦状態だけどな」

「誰?」



先輩は寝ている私の隣に座り、耳元に口を近づけてきた。
教えてくれるのですか。

耳を澄ますと、先輩のちょっと掠れた低い声が漏れた。




「……内緒」



女子ですかアナタは。

2012/03/27 21:43 No.252

冷雫★1sTKPEkFqJ_dYS


――カーン。

間抜けなチャイムの音がした。
初めは驚いたけど、これはインターホンの音らしい。

私は宙先輩をかるーく睨んで、玄関から見えない位置に移動する。



「また女の人ですか……っ!」

「ごめんごめん」



笑いながら先輩は謝った。
そういえば先輩は大学生らしいけど、こんなにサボってて大丈夫なのかな。



「んー、……ってお前らか」

「お前らかって何だ。しかも言葉の割に嬉しそうな顔すんな」
「どうせ他の女が訪ねて来たと思って焦ってたんでしょーが」


「悠人っ!?」



聞き覚えのある、でもちょっと懐かしい声が玄関先で聞こえた。

悠人と葵ちゃんだっ!!
悠人がそこにいるんだっ


やっと、悠人に。


――会える。

2012/03/30 12:38 No.253

冷雫★1sTKPEkFqJ_dYS

  −瀬川 悠人−


百鳥に蹴りをつけて3日後。火野坂と、宙の家に衣冷を迎えに行く。
玄関を開けると、ちょっと気まずげな顔をした宙が立っていた。

だが俺らの顔を見た途端、ぱっと明るい顔つきになった。

うわー。


「んー、……ってお前らか」

「お前らかって何だ。しかも言葉の割に嬉しそうな顔すんな」
「どうせ他の女が訪ねて来たと思って焦ってたんでしょーが」


火野坂が隣で不機嫌そうな声を出す。


「おー、上がるぜー。衣冷……――うおっ!!」



腹に飛びかかってきた物体が、俺を押し倒して床に転がる。
――、予想通りというか。


血の気の通った顔をした、衣冷だった。

リンチにあって約4日。
意識のある衣冷を見るのは本当に久しぶりになる。



「悠人だっ 本物の悠人だーっ!!」

「ははっ ぶつかるのが好きだなお前」


ホント相変わらず。
にこにこと綺麗な顔に笑みを浮かべ、チビッこい身長のせいで幼く見える。
それは俺が好きな、衣冷そのものだ。

床に転がって抱きつく俺らを宙が冷めた目で見下ろした。



「……おい、オレん家でイチャつくな」

「うるせっ」
「悠人ぉー」


駄目だこりゃ、とでも言うように。
宙は目を逸らした。

2012/03/30 13:01 No.254

冷雫★1sTKPEkFqJ_dYS

瀬川 悠人は大学生になった。
相変わらず顔立ちは整い、知らない人からひっきりなしに告白されている。

そんな悠人には恋人がいた。




「はぁるとぉ〜」

「いくらなんでも酔いすぎだ」




夜、大学の仲間で飲んできた悠人は、酔った恋人を背に担いでいた。
住宅街の道の真ん中を、1つに重なる影が行く。

花橘 衣冷の背は相変わらず150センチを超えない。
初めて飲んだ酒にべろべろになりながらも、悠人の背で幸せに頬を綻ばせていた。




「はるとはぁー、飲まなかったのぉ〜」

「俺も飲んだよ」

「じゃあなぁんでそんなに普通なのぉ〜」
「お前弱いくせにジョッキを一気飲みしただろ」
「だぁって知らなかったらもーん」



悠人は呆れて溜息を吐きながら、熱くなった衣冷の手を触る。
夏なのにこんなに熱い奴背負って、俺はもう嫌だわ。
そんな気持ちすらも抱える。



「衣冷、これから絶対酒飲――」

「えー? 何らってぇー?」

「ああもう駄目だコイツ」




衣冷の高2の頃と同じくらい伸びた髪が、悠人の頬をくすぐる。
はぁはぁと乱れた吐息が。速くなった鼓動が。

全て、悠人を意識させるに十分だった。



「衣冷。ちょっと降りてみ」

「はぁい?」

「そこの土手に座ろう」

「わかぁったぁ〜」

2012/04/01 21:07 No.255

冷雫★1sTKPEkFqJ_dYS

家々の隣にある川沿いの土手に2人は座った。




「なぁに?」

「ちょっとその口貸せ」


衣冷の細い髪を耳に掛け、そのまま手を頬に当てる。
微かに開いた唇にそれを重ねて悠人はそのまま土手に衣冷を押し倒す。



「ふぁ」

「衣冷、愛してる……」

「わ、たしも」



2人ともお互い視線を絡めあって、微かに笑った。


















                end

2012/04/01 21:23 No.256

冷雫★1sTKPEkFqJ_dYS

お、終わってしまった……。


これでよかったのだろうかという少しの罪悪感と、
悠人と衣冷にもう会えないという寂しさ。

何なのだろうww


いえいえ、大丈夫です。
いつかほとぼりが冷めた頃に。



「机に頬杖をついて愛を語る  改訂版」


を書きます。
後半ぐだぐだでしたし。

このままじゃ後味悪いしw
絶対に改訂版をあげますんで、そん時はここにもURL貼ります。

では、みなさん。
またいつか、衣冷と悠人と葵と彬と宙と、その他もろもろの奴らと会いましょう。

2012/04/01 21:32 No.257
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